研究課題/領域番号 |
22K14131
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
中尾 篤史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), ポストドクトラル研究員 (00817249)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マントル対流 / データ同化 / 逆問題 / 部分的観測 |
研究実績の概要 |
本研究は,流体力学の数値シミュレーションに基づき,地球マントルの対流構造の変遷を明らかにすることを目的としている.本研究の申請当初は,「地球化学トレーサ」を既存のマントル対流のフォワードモデルに組み込み,実行し,その結果を解釈する,というアプローチを計画していた.しかし,研究を進めるに従い,「地球マントルの運動履歴を間接的に反映した観測データ」をもとに逆問題的にそれを解く手法がより目的に適うと考え,アジョイント法を用いたマントル対流のデータ同化コードを一から構築する運びとなった.「地球マントルの運動履歴を間接的に反映した観測データ」とは,具体的には,地球表面(プレート)の運動速度の時系列,最終ステップにおける温度場,最終ステップにおける地球化学トレーサの分布などである.これらの観測データを説明するように,未知数,すなわち,過去におけるマントルの温度や地球化学トレーサの分布を制約する,という問題設定を行い,数理モデルを作成した.人工データを用いたシミュレーションの結果,先述の限られたデータのみから,過去の地球マントルの対流構造を(それほど遠い過去でなければ)精度良く復元できることを明らかにした.この結果は国際誌での査読でポジティブな意見を得て,現在,改訂作業中である. 本年度の終盤では,地球化学トレーサに記録される組成・温度・圧力履歴などを同化するための数値コードを作成し,様々な条件でテスト計算を行いつつある.その結果,地球化学トレーサ単独では,対流構造の制約に限界があることが明らかとなってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アジョイント法の応用が奏功したことで「地球マントルの対流構造の変遷を明らかにする」という目標に当初の想定以上に近づいたと言える.地球化学トレーサの情報を同化するための数理モデルにも進展があった.一方で,当初想定していた部分溶融や脱水反応に対応する地球化学トレーサのモデリングには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り,地球化学トレーサ単独では対流構造の制約限界があることが明らかとなってきた.そのため,地震波速度構造などの地球物理的な観測との複合的アプローチにより,対流構造を制約するような手法を推進する.部分溶融や脱水反応に関するアジョイント方程式を導出することは大変に難しいため,地球化学トレーサのモデリングは従来通りフォワード問題の範囲で検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校正・論文出版にかかる費用を想定していたが,共同研究者に支出いただいた.一方で,円安とインフレーションの影響で,国際誌での論文出版や国外への旅費は当初想定より高価となっているため,繰越額は次年度にその補填に充てる。
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