研究課題
初期の火星には水が存在し、高温の熱水と岩石の反応が起きたとされる。火星表層の岩石や鉱物(かんらん石)の組成が地球の組成と異なっており、その岩石と反応し生成した熱水は地球の熱水以上に水素に富んだ可能性がある。水素は生命の代謝に関わる重要な元素であることに加え、昔の火星表層環境にも影響を与えていた可能性がある。しかし、火星表層の水-岩石反応でどの程度水素が供給され、影響を与えたかは不明な点が多い。そこで本研究の目的は、太古の火星熱水系を想定したかんらん石を用いた室内実験を行い、水-岩石反応に由来する熱水組成(特に水素濃度)を明らかにすることである。地球上に多く存在するかんらん石(Fo90)よりFeに富むFo80-Fo0という組成範囲のかんらん石が火星には存在している。そこで、火星表層でみられるかんらん石の端成分における水素生成量を理解するために、前年度に開始したFo70-80程度のかんらん石を使った実験に加え、本年度はFo0程度の鉄かんらん石を使用した実験を行った。実験温度は、熱力学計算に基づいて最も水素濃度が高くなる120℃とした。しかし、120℃という比較的低温での水-岩石反応は非常に反応が遅く、4か月状態経過した段階でも反応による流体組成の変化がほとんどみられていない。この実験については、今後も引き続き溶液のサンプリングをしながら反応をモニターしていく予定である。一方、前年度から開始したFo70-80の水-岩石反応実験は水素濃度等が定常状態に達したところで終了した。その水素濃度は地球のかんらん石(Fo90)のものより高かった。また、室温でのpHは他のかんらん石の実験と同様にアルカリ性を示した。固体実験生成物は真空状態で乾燥後、分析を実施した結果、ほとんどのかんらん石が反応によって消失したことが明らかになった。以上の結果は熱力学計算と調和的であった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、今年度始めた水-岩石反応実験の溶液・固体成分分析を完了する予定であったが、その実験が低温条件のためかなり長い反応時間を要しており、あと数か月は反応にかかると見込まれる。一方で、前年度開始した実験においては、水素濃度が一定状態に達したのち、実験を終了させ、大まかな溶液・固体分析を行うことができた。また、実験条件下において鉄を多く含むかんらん石(Fo70-80程度)が地球のかんらん石(Fo90)よりも多く水素生成することを実験的に明らかにすることができた。以上より、進歩状況は概ね順調と判断した。
1つ目の実験終了時に得られた実験生成鉱物の構成割合を算出すために今回XRD分析を利用したが、より詳細な鉱物割合の定量化を目指すため、熱重量分析等を実施する。その後、それらの鉱物の元素組成についてもSEMやEPMA等を利用して明らかにする。続いて、そこで得られたデータと熱力学計算との比較を行う。一方で、かんらん石(Fo0程度)を120℃で反応させた実験においては、数か月の時間経過ではほぼ反応が進行しておらず、今後もかなりの時間を要することが想定される。終了までに得られる溶液サンプルに関しては、逐次分析を行っていく。さらに、実験装置が空き次第、異なる条件下での実験を開始することも検討している。同時に、生成した水素の同位体比の測定も順次行っていく予定である。
実験の進捗が遅れており、予定していた現場実験および学会参加を延期した。繰越分は今後の現場実験の必要物品および学会参加費等に使用する予定である。
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Minerals
巻: 14 ページ: 259
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