再結晶・粒成長などの焼鈍現象を通じた金属材料の粒界性格分布の制御,すなわち粒界工学の技術は,合金化に頼らない省資源・省エネルギー材料開発において極めて重要である.粒界工学の高度化・効率化のためには数値解析による系統的組織予測が有望であるが,粒界性格分布の予測において必須の「粒界物性の異方性」と「焼鈍双晶形成」の表現を完備したモデルは未確立であり,数値解析の実応用は停滞している.本研究は,データ科学の援用により,原子スケールの分子動力学(MD)解析を上位スケールのフェーズフィールド(PF)法解析へと定量的に融合させることで,物性異方性と焼鈍双晶形成を正確に反映したメゾスケール焼鈍組織予測を実現し,粒界工学の高度化に向けた新技術の提示を図るものである.最終年度である本年度は,粒界物性の異方性の取得,焼鈍双晶形成のMD解析およびモデリングに注力し,下記の成果を得た. まず,前年度までに構築したデータ同化実装PFモデルに対し,AlやPtなど各種金属の MD粒界移動解析を統合することで,あらゆる粒界面方位に対する粒界エネルギーデータを取得し,焼鈍過程において重要なファセット状粒界の形成を再現可能とした.さらに, 取得した粒界エネルギーデータを用いたPF解析を行い,元の観測データであるMD解析結果との整合度を確認することで,データ同化による物性評価結果の妥当性を示した.次いで,Cuなど低積層欠陥エネルギー材料に対して焼鈍過程のMD解析を行い,焼鈍双晶形成の再現に成功した.その後,双晶核の形成条件をモデル化してPF法に導入するべく,核形成と各種組織因子との相関を調査したものの明確な傾向は見られず,PF法による焼鈍双晶形成の定量的再現には至っていない.今後,ニューラルネットワークなどの機械学習手法を用いた核形成のデータ駆動モデリングが必要になると考える.
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