本研究の目的は、複数の安定な状態を有するマルチステイブルな折り紙構造に注目し、弾性変形による繰り返し利用可能なエネルギー吸収構造の創製である。特に、構成要素となるユニットセルの機械的特性を幾何形状の設計により向上を図り、それらを複数連結させた構造中を伝搬する非線形波動に基づいた衝撃吸収機構の開拓を目指す。これまでの塑性変形に基づく衝撃吸収材では、一度使用すると元の形状に戻すことはできないため繰り返しの利用は困難であるが、弾性変形のみによるエネルギーの吸収・散逸により再使用可能な衝撃吸収構造が期待できる。 本研究では、まず折り紙に基づくマルチステイブル構造の数値解析モデルの構築を行い、変形に伴うエネルギー曲線を解析することで、ユニットセルのレベルにおいてエネルギー的に安定な状態が一つのモノステイブルのほか、複数の安定な状態を持つマルチステイブルな特性までチューナブルに変化可能であることを確認した。次に、このユニットセルを複数個連結させたシステムを考え、このシステムに与える衝撃のレベルに応じて、ソリトンやエネルギートラッピングを伴うtransition waveといった異なる非線形波動の発現を明らかにした。そして、このようなマルチステイブルなユニットセルで構成されるシステムを、樹脂材料を用いた積層造形装置により試作を実施した。ユニットセルレベルでのマルチステイブル特性だけでなく、複数個連結したシステムを組み立て、エネルギートラッピングによるエネルギー吸収、およびトラップしたエネルギーの逐次的な解放による初期状態への遷移を繰り返し発現できることを確認した。
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