研究課題/領域番号 |
22K14169
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大久保 光 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 助教 (50906352)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トライボロジー / ホストゲスト相互作用 / オペランド計測 / 分光分析 |
研究実績の概要 |
本研究では,自己修復性・超低摩擦性を兼備したトライボロジーシステムの構築を目指して,ホスト-ゲスト相互作用を利用した自己修復性超分子材料に着目し,その摩擦場における自己修復-潤滑機構を種々のオペランド分析により明らかにすることを目的とした.本年度は,自己修復ゲルの水中における摩擦摩耗特性及び摩擦場における自己修復性について着目した.摩擦係数の速度依存性を確認した結果(図1),摩擦係数は0.05から0.1程度で推移し,摩擦係数の速度依存性は正勾配を示した.さらに,あらかじめ摩擦面の一部に切り込みを入れることで,その切り込み面の自己修復性を確認した.その結果,摩擦後に自己修復ゲルの切り込み部が部分的に接合されており,自己修復ゲルが摩擦時に自己修復することを確認した(図2).この自己修復機構を検証するため,全反射法(真実接触部が発光することで摩擦界面を観察可能な手法)を用いて,摩擦界面のその場計測により摩擦面における自己修復プロセスを確認した.ゲルに予め設けた切り込みは,相手圧子の接触・貫入による弾性変形によって,切断面の両面がある接触することで,部分的に自己修復している様子が確認された.一方,摩擦することで,その切り込み部が摩擦せん断方向に弾性変形によりさらに接着し,自己修復が進行する様子が確認された.今後は,別手法の観察法にて,ゲルの自己修復機構を検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,ゲルの試作やオペランド分析装置の開発・導入に時間を要したものの,実験・分析評価については順調に進展した.ゲルの基礎評価としては,汎用摩擦試験機を用いることで,水中におけるゲルの摩擦速度依存性を確認することが出来た.一方,「超低摩擦性」を発現すると思われたゲルは,水中での摩擦係数は低いものの,一般的な超低摩擦性と呼称される摩擦係数0.01以下の数値を発現する事はなかった.さらに,ゲルの摩擦場における自己修復性についても検討した.ゲルの摩擦面に予め導入した損傷の状態を観察することで,摩擦界面における自己修復性を簡易的に確認した.その結果,本研究のコンセプトである「接触と摩擦剪断に伴うゲルの弾性変形による自己修復」を定性的に観察した.より詳細に摩擦接触界面におけるゲルの自己修復挙動を確認するため, 全反射法による摩擦界面の真実接触部の可視化を試みた.その結果,予め導入した損傷部が,接触・摩擦に伴って弾性変形することで,損傷部が脱着する様子が確認された.本結果より,接触界面に発生する凝着性が自己修復性に大きく寄与している事を見出した.上述の結果に基づき,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
超分子ゲルが超低摩擦性を発現する事に期待したものの,現状,単に水中で摩擦しただけでは,超低摩擦性は発現しなかった.そこで,ゲルと相性の良いポリビニルアルコール等をゲルと併用する事で,ゲルの界面構造制御を実施し,さらなる低摩擦性の獲得を目指す.また,オペランド計測については,昨年度は,全反射法(真実接触部のみ可視化される手法)により実施したが,水中における全反射法の実施は,摩擦界面の可視化の際に,水の介在面と真実接触部の判定が困難であった.そこで,今後は,蛍光顕微鏡もしくは通常の光学顕微鏡と摩擦試験機を組み合わせることで,その摩擦・接触部における挙動を解析可能な工夫を行うことで,水と接触部を切り離して評価可能な装置を構築する.また,化学情報として,Raman分光分析によるオペランド計測を実施する事で,マクロ・ナノスケール情報から,ゲルの自己修復状態を評価する.
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