水素と酸素で動作する固体高分子形燃料電池はクリーンな動力源である。その普及には高出力密度化が不可欠であるが、そのために水素と酸素を多量に反応させると多量の水が電池内に滞留し、触媒への酸素供給が阻害される。つまり、電池の出力密度は水の滞留により制限される。この問題を解決するためには電池内のミリスケールのセパレータ、マイクロスケールの細孔を有するガス拡散層、サブマイクロスケールの微細多孔質層の内、どこの水が性能を律速するのか、何がトリガーとなり、そこに水が滞留するのかを明らかにしなければならない。本研究はこれまでに独自開発してきた高速解析手法を発展させ、電池内部の水・蒸気輸送解析モデルを構築することで、固体高分子形燃料電池の水・蒸気輸送メカニズムを明らかすることを目的としている。現在は気液の判定に用いる秩序変数を蒸発・凝縮に応じて変化させるサブモデルを組み込むとともに、移流拡散方程式を加えることで蒸気輸送を計算できるアルゴリズムの導入が完了しており、水・蒸気輸送解析モデルの作製が概ね完了している。ただし、計算コストを低減するために粗いタイムステップを用いると安定性に若干の問題が発生した。この点について改良が必要である。またモデルを検証するための実験装置の作製も進めており、現在では3Dプリンターを用いて可視化用のガス拡散層の作製も完了している。光学系の構築が完了し次第、固体高分子形燃料電池の水・蒸気輸送を模擬した実験を行い、開発したモデルの検証用データの取得を行う。
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