研究実績の概要 |
研究期間全体の主な成果を以下に挙げる. (1) 細胞内水分子のスローダイナミクスに関する検討: スクロース水溶液に懸濁したヒト由来Jurkat細胞の誘電分光では, 水分子由来の緩和が2つのDebye型の重ね合わせとして表されることがこれまでの研究で分かっていたが, それらに対応する2つの緩和時間の比について, リゾチーム(タンパク質)水溶液に関する分子動力学(MD)シミュレーションの結果との比較を行った. この結果, 2つの緩和時間の比は同程度であり, またその濃度依存性についても同様の傾向がみられ, 細胞内水分子についての2つのDebye緩和のうち低周波側のものが, 細胞内の生体高分子等との相互作用により遅いダイナミクスを示す水分子を特徴づけることをサポートする知見が得られた. また, イースト細胞に対する誘電分光を行ない, ヒト由来Jurkat細胞と同様に水分子由来の緩和が2つのDebye型緩和の重ね合わせとして表されることを明らかにした. (2) 深共晶溶媒の分子ダイナミクスの測定: 生体分子の安定化作用が期待され, 細胞凍結保護物質としての検討も行われ始めている深共晶溶媒について, 誘電スペクトルの取得および物質輸送の測定に関する検討を行った. 塩化コリン-エチレングリコール, 塩化コリン-グリセロールの誘電分光では, Kramers-Kronigの関係を用いることで導電率成分の寄与がない誘電率虚部スペクトルを得る手法が効果的であることを示した. (3) 定積凍結(isochoric cryopreservation)を利用した細胞の保存に関する検討:定積チャンバーに細胞懸濁液を入れ, 低温に保つことにより高圧力下で氷晶によるダメージを避けながら細胞を保存するための検討を行った. 超々ジュラルミンを用いた定積凍結用高圧チャンバーを設計し, これを用いた定積凍結保存による細胞生存率と, 誘電分光を用いて求めた水分子緩和時間の関係について整理した.
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