研究課題/領域番号 |
22K14192
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
磯部 和真 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (10880180)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 熱放射率スイッチング / メタマテリアル / 二酸化バナジウム |
研究実績の概要 |
温度の高低によって放射冷却現象に関わる中赤外波長における放射率を自律的に制御可能な微細構造を創成する足がかりとして,時間領域差分法による数値シミュレーションを用いた構造の探索を行った.金の基板上に二酸化チタン及び二酸化バナジウムを順に積層した多層構造を対象とした放射率の評価を進めるため,既存の数値シミュレーションにベイズ最適化手法による再帰的な構造探索アルゴリズムを組み合わせた.これにより,効率的な性能評価を進めることが可能となり,これまで考えていた構造よりも高い性能を持つ構造の発見に繋がった.これらの数値シミュレーションを通して,赤外放射率の大小に関わる物理現象の起源についての理解が進行したとともに,放射率制御の鍵となる材料である二酸化バナジウムの物性に求められる特性についての指針が得られた.これらの知見や成果については,学術誌への投稿のために論文を執筆中である. また,温度によって金属的あるいは絶縁体的な反射,放射特性を示す機能性材料である二酸化バナジウムについて,ゾルゲル法による薄膜合成や酸化あるいは還元雰囲気下におけるアニール処理を並行して進めている.現在は通常の実験室環境下で作業を行っているために不純物の混在が懸念されるものの,そのような環境下であっても基板となる材料やアニール条件を適切に整えることにより,クリーンルーム内でのパルスレーザー堆積法により得られた純度の高い二酸化バナジウムと同じく,60℃前後において電気抵抗値が100倍程度変化することが確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値シミュレーションとベイズ最適化手法を組み合わせた微細構造の構造探索については,アルゴリズムの構築が当初予定通りに順調に進行している.ただし,構造を複雑にするほど計算負荷が増大し,解析速度を更に向上させるためには中期的な計算資源の不足が懸念されているため,ワークステーションの追加導入を検討している. また,ゾルゲル法を用いた酸化バナジウム薄膜の合成手法の確立が進み,V原子の価数が4となる二酸化バナジウムを得るための適切なアニール処理条件が明らかとなった.更に,合成した二酸化バナジウムの薄膜の温度を上昇させる過程における電気抵抗値の変化傾向が文献値とおおよそ一致していることが確認された.一方で,反射光の測定による薄膜の屈折率解析については装置の不調などによりやや遅れが生じている.代わりに研究機関の近隣の公設試の共用装置を利用するなどして,微細構造の製作へ向けた工程を加速させていきたいと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
ゾルゲル法により合成した薄膜の複素屈折率を分析するため,エリプソメータを用いて温度を変調しながらの屈折率測定を予定している.エリプソメータとしては近隣の公設試で公開されている共用装置(可視光用)を利用する予定である.本研究では幅広い温度における薄膜の複素屈折率を測定することが必要であるが,利用予定のエリプソメータには温度調整機能が備わっていない.そこで,装置自体の寸法を考慮しつつ,温度制御が可能なホットプレート上で測定を行う,あるいは装置外部で予め加熱した薄膜を測定時のみエリプソメータの試料台に移動させてバッチ測定を行う等の方法を検討する.また,赤外波長の複素屈折率の測定へ向けては,前年に引き続き分光器を用いた分光反射光測定の検出精度を高めるための調整を進める.ただし,前年度に行った数値シミュレーションの結果より可視光に対する複素屈折率の方が微細構造の性能により大きな影響を与えることが判明したため,赤外波長に関する反射率測定の優先度は低めとする. また,前年度に行った数値シミュレーションから金属基板と二酸化バナジウムの薄膜によって二酸化チタンの薄膜層を挟む微細構造が好ましいことが示唆された.この微細構造の製作へ向けて,任意の金属基板上に二酸化チタン薄膜をゾルゲル法により成膜すること,及び二酸化バナジウム薄膜をこの薄膜上に積層することに取り組む.このいずれの工程においても適切な雰囲気下によってアニールする必要があるため,条件の最適化についても実験を進める.更に製作した多層薄膜について共用あるいは現有の電子線リソグラフィー,反応性イオンエッチング装置を用いて周期的な微細構造を施すための各装置の条件設定を進行させていく.
|