研究課題/領域番号 |
22K14200
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
劉 芽久哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (90872440)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 熱拡散率 / ソフトマテリアル / 機能材料 / 温度波熱分析法 / MEMS / 熱伝導率 / 高分子材料 / 微小領域計測 |
研究実績の概要 |
本研究では、ソフトマテリアルの局所領域の熱拡散率計測の新たな手法として、温度波熱分析法の原理に基づいた、プローブ型の計測システムの開発を進めている。ソフトマテリアルは、ミクロ、ナノスケールに多様な高次構造を有し、この構造が異方性を含めた多様な熱物性をバルクで発現するため、これらの直接測定に基づく構造と物性の相関解明が、高次構造制御に立脚した熱制御においては重要な知見となる。 プローブ型のセンサーを用いた微細領域の熱物性計測システムの構築においては、(1)温度波熱分析法の方法論に基づく適切な計測システムの設計と、(2)これらを実現する微細デバイスの制作が2つの大きな研究要素となる。特にデバイスの開発においては、その設計段階から温度波熱分析法の原理に基づいたデザインを考慮することが重要で、本研究においてもこれら2つの研究開発要素を並行して進めている。 計測システムの設計、及び微小領域での温度波に対する周期的な温度応答の解析においては、積分変換による熱拡散方程式の解析を用いて、特に位相遅れについて正確な解析解を求めることを試みた。また実際のシステムを記述するモデルとして、データ解析に利用できるよりシンプルなモデルについても同時に考案した。これにより実際の実験において考慮が必要になる、サンプル-プローブ間の接触熱抵抗、プローブの熱容量などを最適化パラメーターとして容易にモデルに追加することが可能になった。 デバイス作製については、これまでのマスクアライナーによるリソグラフを用いた微細加工に加えて、マスクレスリソグラフィーやレーザー直接描画などの新たなプロセスを導入した。マスクレスのプロセスを導入したことにより、これまでより自由度の高いデバイスデザイン、自在性の高いデバイス製造プロセスへと改良することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、微細計測デバイス開発の第一段階として、微細加熱機構、微細センサーの作製を進めた。これまでの微細加熱機構は長方形をベースにした外形の加熱部を持っていたが、これらは熱伝導モデルの解析の際に、比較的対称性の低い構造であり、温度応答のモデル化が難しい。これまでのデバイス作製プロセスでは、マスクレス露光装置を用いたDMDからの像の転写でデバイスを描画していたが、本年度はレーザー直接描画装置でより自由度の高い形状を描画できるよう、プロセスを改良した。これにより微小加熱回路や、センサーアレイをはじめとした計測デバイスを、より対称性の高いデザインで製造することが可能になり、解析モデルに近い温度場をデバイス内部に実現できるようになった。 本研究では、ターゲットとするサンプルの形状を、3次元的な形状を持った微小な立体としている。これは具体的には、一辺の長さが100μm以下の立体を想定しているが、このようなサンプルの内部での正確な温度波の伝搬をモデルで予測することは難しい。また、これまでのフィルム状サンプルの面外方向の計測で仮定していた、1次元熱流はこのような立体形状のサンプル内部では、ある程度のアスペクト比から有効でなくなることが予測され、モデルの改良が必要であった。今年度の研究では、3次元モデルから解析を試み、一部を近似することにより準1次元的な熱モデルで微小3次元立体内部の温度波の伝搬を予測することを試みた。また、実験においても1次元熱流の過程が有効でなくなるサンプルアスペクト比を解明するべく、種々の立体形状(特に計測方向とそれに垂直な方向のアスペクト比が異なる形状)の測定を進め、新規モデルと従来モデルの適用範囲の確立を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後のデバイス開発においては、より微細化した加熱機構を開発し、より小さい領域での温度波の伝搬現象を解析する。現在作製できている微小加熱デバイスは最小直径が20μm程度であるが、今後の研究開発では10分の1程度のサイズのデバイスの作製を目指す。また現在は、基板上に2次元的に微細なデバイスの作製を行なっているが、今後は3次元的に微細な加熱、計測点を持つようなプローブ型のデバイスの開発も進めていく予定である。プローブ型のセンシングデバイスについては、コア-シェル型のデバイスを設計しており、ガラス管の中心に金属ワイヤーを通し、これを加熱しながら延伸することで、先端が微細な中心金属とガラスの絶縁層を持つプローブを作製する予定である。このプローブの外側に別の種類の金属膜を製膜することで、先端部分に感度を持つプローブ型センシングデバイスが作製できる。 またデバイス作製に使用している材料についても、現在は純金属が主であるが、今後は半導体材料なども有効に取り入れて、より感度が高くデバイスの集積密度が上げられる材料を取り入れていく予定である。 今年度までの研究では測定対象として主にソフトマテリアルをターゲットとしており、実際にネガ型レジストなど、半導体製造プロセスで重要なソフトマテリアルの微細構造の熱物性を明らかにしてきた。一方、ソフトマテリアルはその易成形性から、無機フィラーとの複合化を行うことで高い成形性と高熱伝導性を合わせ持つ複合材料の母材としても注目されている。このような複合材料においては添加するフィラーそのものの熱伝導性も評価する必要があり、これらマイクロスケールの微細粒子の測定需要も高い。システムの構築と平行して、測定可能なサンプルの幅も広げることで、今後はより幅広い熱的機能材料の評価手法としての確立を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金はMEMSデバイス製造のために使用する計画であったが、当該年度の研究の中で、デバイス設計に変更が生じ、設計を改良したうえで実際の製造を次年度に行うこととした。当該助成金は次年度の予算と合わせて、改良後の設計のデバイスの製造に充てる計画である。
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