研究課題/領域番号 |
22K14240
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井渕 貴章 大阪大学, 大学院工学研究科, 講師 (90755646)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / 電磁環境両立性(EMC) / 寄生成分 / 磁性材料特性 / 高周波鉄損計測 / 空間電磁結合 |
研究実績の概要 |
本研究は、電力変換回路における電磁環境両立性(EMC)設計の実現を目的とし、電磁干渉(EMI)ノイズ閉じ込め・抑制に用いる受動素子の材料物性に起因する非線形特性のモデル化、および配線や素子間の空間電磁結合のモデル化に基づいて、ノイズフィルタや付帯回路を含めたシステムレベルでのノイズ閉じ込め・抑制設計法の確立に取り組むものである。電力変換回路におけるEMIノイズ発生量予測および抑制・低減検討について、近年ではCAE(Computer Aided Engineering)に基づく大規模解析に対する要求が増加している。CAE解析は電気・機械・電磁気・熱などの連成解析が行えるため、電力変換機器設計における開発期間短縮・試作コスト削減の観点からも有用かつ必要不可欠と考えられる反面、解析の前提となる物理的性質や制約条件を適切に設定しない限り妥当な結果が得られない。よって本研究では、広帯域ノイズ解析における受動素子の材料物性を含めた特性の定量評価・モデル化に着目することとした。今年度は特に、トロイダル型コモンモードチョークインダクタを例に高周波鉄損の実測評価法・モデル化を中心に検討を実施し、素子が持つ寄生成分とノイズ低減・抑制の基本原理との対応付けを図った。電圧・電流測定に用いるプローブの広帯域ゲイン・位相特性評価やMHz以上の高周波数帯を対象とした鉄損測定法の原理検証や課題抽出により、広帯域・高精度鉄損計測およびモデリング技術の確立に向けた重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電力変換回路における従来のEMI対策技術は経験とノウハウに頼る要素が多く、ノイズ課題の根本的解決を図るためには、EMIノイズの発生・伝搬メカニズムを明らかにしたうえで広帯域EMIノイズ抑制・低減設計法に関する検討・考察を行うことで、幅広い動作条件・周波数帯域にわたって電力変換回路のEMC性能担保を目指すことが重要となる。本研究では、扱う電圧・電流の大きい電力変換回路に適用するノイズ閉じ込め・抑制用受動素子の材料特性把握に着目し、実測評価結果に基づく特性のモデル化について検討を実施している。具体的には、電力変換回路におけるEMIノイズ源特性や高周波鉄損の評価において課題となる、オシロスコープを用いた電圧・電流の広帯域・高精度測定に向けた電圧・電流プローブのゲイン・位相特性評価を行った。また広帯域・高周波数成分を含む電圧・電流を高精度に測定するため、プローブ間に生じる特性差異の補正手法について検討した。これらに基づいて、電流と電圧の位相差が90度に近い低鉄損・低力率磁性材料の広帯域鉄損評価における検出位相誤差による鉄損計測誤差の定量評価を実施し、MHz以上の高周波数帯における鉄損の高精度計測に関する検討を行った。以上で得られた知見は、EMIノイズ測定・評価技術や回路構成要素の材料特性把握・モデル化において有用なものであり、本テーマに関して複数件の学会発表によって有識者との議論・意見交換ができたことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」に示した通り、電力変換回路におけるノイズ測定・評価技術や回路を構成する受動素子の材料特性評価に関してはおおむね順調に進捗している。次世代電力変換回路の広帯域EMIノイズ低減設計技術の確立に向け、今後は空間電磁結合の特性評価・モデル化に関する検討にも本格的に取り組む考えである。具体的には、DC-DCコンバータやモータ駆動用インバータで広く用いられる入出力部のブスバー配線や平滑コンデンサ、およびノイズフィルタに用いられるコモンモードチョークやコンデンサ間の各種空間電磁結合の解析に着目する。各構成要素の寄生インダクタンス・寄生キャパシタンスの定量評価・モデル化、および各素子間の微小な静電結合・磁気結合について、近傍磁界強度・近傍電界強度を指標とした実測評価・モデル化について検証する。これらによって、空間電磁結合を考慮したノイズフィルタ減衰特性の評価・モデル化や100 MHzを超える高周波数帯のEMIノイズ解析・モデリングに向けた検討へと展開させる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
受動素子の周波数特性測定に供するベクトルネットワークアナライザ周辺回路の測定治具製作を実施する計画であったが、現有の測定装置・治具で対応可能であることが実験検討を進めるうえで明らかとなったため、未使用が生じた。この未使用額は2023年度に高CMRR特性を有するプローブの導入や、空間の電磁界強度を評価・可視化するための測定システム構築(近傍電磁界プローブ・アンテナ等)に使用する予定である。
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