IoTが社会に浸透するのに伴い,膨大な数の電子機器が無線通信によってネットワークに接続するようになった.今後ますます無線技術の利用加速が確実であり,必然的にアンテナの製造数増大が推測できる.無線通信の基板となる質の良いアンテナを設計するためには,アンテナごとの性質に適した測定技術の獲得が 不可欠である.近年では無線周波数利用の巨大な需要に押されて,従来の移動体通信で用いられてきたマイクロ波帯よりも周波数の高いミリ波・テラヘルツ波帯 の開拓が強く推進されている.テラヘルツ波帯の電波はマイクロ波帯の電波と比較して電波の伝搬距離に対する減衰が大きいため,放射ビームを鋭く絞ってアン テナの利得を高くし,鋭いビームを空間的にスキャンして無線端末を追尾することが一般的とされている.このことから,テラヘルツ帯においては高利得かつビーム方向が斜め方向のアンテナを高速かつ効率的に測定する技術を確立することが課題となる.本研究は疎なアンテナ近傍界振幅を用いて密なアンテナ近傍界の振幅と位相それぞれを独立な補間アプローチによって推定する,高速な平面状近傍界測定によるアンテナ放射特性の推定手法の確立を目的とする.提案手法 では平面状に取得した疎な振幅分布からバイリニア補間によって密な振幅分布を取得し,数値的に作成した密な振幅分布を用いて,反復処理に基づく位相推定手法を導入して密な位相分布を推定する. 令和5年度は実際にアンテナを試作して平面状の放射電磁界を実測し,それを用いて提案手法の妥当性評価を行った.また,実測の際に混入することが想定されるプローブの位置ずれや乱数的なノイズをシミュレータ上で再現し,提案手法に対してそれらの外乱が及ぼす影響を明らかにした.
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