研究課題/領域番号 |
22K14274
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
加藤 譲 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (20899281)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 非線形動力学 / 同期現象 / 縮約理論 / 作用素論 / 時系列データ解析 / パターン形成 |
研究実績の概要 |
非線形現象の推定、予測、制御の新たな方法論として、力学系の作用素論的解析が近年注目を集めている。本研究の目的は、古典非線形系に対する作用素論的解析に基づいた手法を量子非線形系に適用できるように拡張することである。本年度は、以下の成果を得た。 量子位相関数を用いた量子同期現象の解析:古典系において、非線形振動に対する位相関数は、振動子の特性を集約した位相方程式と関連しており、同期現象の解析に役立つ。近年、この位相関数と作用素論的解析とに関連があることが報告された。本研究では、この作用素論的解析との関連性に基づいて、古典系の位相関数の定義を拡張し、量子非線形振動現象に対する量子位相関数の定義を導入し、強い量子性を示す系でしか現れない量子系特有の同期現象を解析した。 動的モード分解を用いた量子非線形システムの解析:動的モード分解は、流体系などの複雑な現象を示す古典非線形系に対して、非線形ダイナミクスの時系列データから、物理法則に基づいて線形に時間発展する固有モードを抽出することができる手法である。本研究では、量子スピンネットワーク系に対して動的モード分解を初めて適用した。量子スピンネットワーク系に対しては、時間遅れ座標データを利用したハンケル動的モード分解を適用して、1つのスピンのみの測定データから、ノイズの影響を受けない空間での固有振動モードを抽出した。 量子活性抑制系におけるチューリング拡散誘導不安定性:活性因子と抑制因子の2変数で構成される系を活性抑制系という。複数の活性抑制系が、拡散なしの場合には一様であるが、拡散結合によって不安定化して非一様になる、という場合がある。このチューリングの拡散誘導不安定性は、これまで量子系において議論されていなかった。本研究では、量子光学系において活性抑制系の標準数理モデルを提案し、量子光学系においても、拡散誘導不安定性が起こることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに、概ね研究は進んでいる。量子位相関数を用いた量子同期現象の解析については、物理系の査読有り学術誌論文に2件受理され、うち1件は 当該学術誌の Featured articleに選出された。また、電子情報通信系の国際会議にて1件の口頭発表を行った。 動的モード分解を用いた量子非線形システムの解析については、制御系の国際会議にて1件の口頭発表を行った。また、量子光学系に対して、既知のモデルの構造の情報を利用した、動的モード分解に基づくパラメータ推定法を提案しており、制御系の国際会議にて1件投稿済みである。 量子活性抑制系におけるチューリング拡散誘導不安定性については、物理系の査読有り学術誌論文に1件受理された。また、物理系の国際会議にて1件の口頭発表を行った。 また、動的モード分解を用いた確率非線形振動子のデータ解析に関する成果について制御系の国際会議にて1件の口頭発表を行った。 その他、関連研究で、国際会議において4件、国内学会において、3件の口頭発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、動的モード分解を用いた量子非線形システムの解析について、制御系の国際会議に投稿した2件の内容を学術論文誌としてまとめ、研究の内容の詳細を明らかにする。また、近年、量子スピン系における量子同期現象の実験的成果が報告されているため、量子スピン系における同期現象が注目を集めている。そこで、今後は、量子漸近位相を用いた強量子領域における量子同期現象の解析を量子スピン系に対して適用する。また、量子活性抑制系におけるチューリング拡散誘導不安定性については、摂動論などを用いたより詳細な解析を行う。
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