研究課題/領域番号 |
22K14286
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神野 莉衣奈 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50915022)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超ワイドバンドギャップ半導体材料 / 酸化物半導体 / 構造相転移 / 準安定相 |
研究実績の概要 |
準安定相コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)の反応速度論的熱安定性の制御を目的として研究を行った。α-Ga2O3は超ワイドバンドギャップ半導体材料の一つであり、大きな絶縁破壊電界強度が予想されている。そのためパワーデバイスの材料として用いることで高い省エネ効果があり、カーボンニュートラルへの貢献が期待できる。α相は結晶多型の中で熱的に準安定相であり、600℃以上の熱処理で最安定のβ相へ相転移し、高温での熱的安定性が課題である。特にイオン注入のプロセスでは1000℃程度の熱耐性が求められており、高温での構造制御はα相の応用にとって重要である。 本研究では、異方的圧縮応力がα相の反応速度論的熱安定性に与える影響を解明することで、イオン注入後の活性化アニールに必要な1000℃以上で30分間の熱処理後に構造を維持させる手法を確立することを目的としている。 本年度は、高温での構造相転移の機構解明を目的として、その場観察高温ラマン分光および顕微観察を用いて、α相の熱的安定性の面内分布および相転移の様子を評価した。基板表面に一様に成長させたα相の薄膜は、ラマンスペクトルから600℃付近で安定相へ変化していることがわかり、先行研究での高温XRDによる結果と一致した。また、顕微観察から構造変化に伴い表面構造の変化し、安定相の核が結晶全体へ広がる様子が観察された。一方で、サファイア基板上にドット状に選択成長したα-Ga2O3は、空間的に分離された構造により安定核が他のメサへ伝搬することをブロックし、α相の速度論的熱安定性が向上した。選択成長による構造制御により1000℃以上でのα相の安定化が実現した。今後、メサ構造と相転移について解析することで、制御性の向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は異方性圧縮応力による制御を計画していたが、検討の途中でα-Ga2O3の選択成長を用いた安定核の伝搬のブロックにより、α相の高温での反応速度論的安定性が向上し、構造の人工的制御により安定性の向上が可能であるという新しい指針が得られた。これにより、目標である1000℃以上での安定性をすでに実現したことからおおむね順調に進展していると言える。一方で、計画変更により異方性圧縮応力による高温での速度論的安定性の向上に関してはやや遅れており検討途中であるため、今後遂行していく必要性がある。
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今後の研究の推進方策 |
選択成長の構造の人工的制御による速度論的熱的安定性の解析を行う。具体的には、安定核発生確率のメサ構造のサイズ依存性、基板との接合部分であるwindow面積依存性の評価、ラインパターンを用いた安定核の伝播速度の評価を行う。さらに、安定核の初期発生個所の面内分布の有無も検討し応力などの影響を検討することで、人工的に安定性を制御する手法を確立する。 また、選択成長の基板と結晶の結合面積を変化させることで、基板の影響、欠陥(転位)が熱的安定性に与える影響を明らかにする。 研究を遂行する中で機械的な応力を印加しながらの高温測定は難しいと判断した。酸化ガリウムをアルミナで三次元的に囲い、熱膨張係数差による擬似静水圧を印加することで圧縮応力による構造安定化を試みる。 これらを統合してα-Ga2O3の高温での安定性の人工的制御を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で購入予定であった高温ステージは冷却機構などを導入すると予算を大幅に超えるため、購入が難しいことが研究遂行途中で判明した。そこで高温ラマン分光を行っている岡山大学 神崎教授に装置についてご教授頂き、予定よりも少額で高温測定用の設備を整えることができたため次年度使用額が生じた。測定およびセットアップ方法を教えて頂くために数回神崎教授の研究室を訪れたため、旅費分が予定よりも大幅に増額している。 一方で、研究の途中で選択成長を用いた人工的構造の制御によりα相の高温での安定性が制御可能であるという知見が得られ、次年度以降も構造制御を検討したいと考えている。擬似静水圧による制御でも選択成長技術が必須であり、様々なパターン上の選択成長を試す必要がある。パターニングの作製には共用のクリーンルームを利用したリソグラフィなどのプロセスを用いる。特に、電子線描画を用いたナノパターンの作製では一回数十万円程度の費用が発生する。次年度使用額を翌年度分と合わせることで、様々なパターンの作製を試し、その安定性を調べることで構造および応力の人工的制御による準安定相酸化物の熱的安定化を図る。
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