研究課題/領域番号 |
22K14289
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
勝見 亮太 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40908505)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ダイヤモンド / フォトニック結晶 / 量子光学 / NVセンター / ナノ構造 / 量子センシング |
研究実績の概要 |
量子的な性質の活用により、高感度なセンシングを可能にする量子センシングをはじめ、豊かな社会システムが実装できる期待されている。とりわけダイヤモンド中に形成される点欠陥である窒素―空孔(NV)センターは、優れた光学/スピン特性を有するため、磁場や電場、温度などを高感度にセンシングする次世代の量子センサとして注目されています。特にダイヤモンド中のNVセンターからの発光を利用する量子センサーは、室温下で高感度な磁気検出の可能性があり非常に注目されている。 しかし、これまでに報告されたダイヤモンド量子センサーは既存のセンサーに比べて数桁も検出感度が劣っている。ダイヤモンド量子センサーの磁気検出感度を律速する大きな要因として、集団NV中心の発光利用効率の低さが挙げられる。これはダイヤモンドの高い屈折率によってNV中心の発光が基板中に閉じ込められてしまうためであり、NV中心からの発光を効率よく取り出すためには、ダイヤモンド基板に対する光ナノ構造の導入が必要不可欠である。ところが量子センサーの分野においては、発光を高効率(>90%)に取り出すためのデバイスの設計さえほとんど行われていない。またダイヤモンド基板の直接加工は技術的に難しく、集団のNV中心を対象とする分野では発光制御や光取り出しに重要な光ナノ構造の導入もほとんど進められていない。そこで、ダイヤモンド集団NV中心の発光を増強し高効率に取り出す光ナノ構造をどのように実現するか、が重要である。 そこで本研究では、高感度な磁気検出が可能なダイヤモンド量子センサーの実現に向けて、集団NVセンターの発光強度増強と高効率光取り出しを可能にする新奇ナノ光共振器構造を独自に設計・作製することを目指す。本研究はダイヤモンド量子センサーの分野において光ナノ構造と新規作製技術を初めて取り込むものであり、前例のない高い独自性と創造性を有する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、高感度な磁気検出が可能なダイヤモンド量子センサーの実現に向けて、NVセンターの発光強度増強とその高効率な発光取り出しを可能にする共振器デバイス構造を提案した。同構造を利用すると、NVセンターの磁気感度をさらに向上することが可能となり、超伝導量子干渉計といった既存のセンサーと同等の数十fT/√Hzの感度が期待されることを数値計算上示した。さらに、デバイスサイズが数μmと小型なため、必要となる光パワーの大幅な低減も可能となることを明らかにした。また本研究では、独自のハイブリッド集積技術である転写プリント法を活用することで、ダイヤモンドの微細加工の可能性も示した。以上の成果より、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度で設計した光共振器構造を実現すべく、ダイヤモンド基板上における光ナノ構造の作製手法を確立する。なお、ダイヤモンド基板の加工は世界的にもまだ発達段階であり、いくつかの海外グループにおいて単一NVを対象とした微小光共振器や導波路構造の作製に留まっている。ダイヤモンドの加工プロセスを難化させる大きな問題として、ダイヤモンド基板の帯電による加工に必要なマスク作製の技術的難しさが挙げられる。また加工におけるエッチング中のマスク耐性も重要である。 そこで申請者は、予め高品質に準備された堅牢なマスクパターンのダイヤモンド上ハイブリッド集積に取り組み、自身のコア技術である転写プリント法を基軸とした新規ダイヤモンド加工技術の開発を行う。転写プリント法とは、透明ゴムによる剥離・転写の操作のみで所望の素子・試料を簡易的に基板上に集積できる手法であり、申請者は同技術を集積量子フォトニクスの分野で世界に先駆けて活用してきた。同手法を用いれば、ダイヤモンドNV基板上に直接マスクを作製することなしに、他の材料系からなる高品質かつ緻密に作製されたマスク構造を基板上へ簡便に導入できる可能性がある。本研究では、マスク構造をダイヤモンドNV基板上に転写プリント集積する技術を確立し、エッチング技術と組み合わせることでダイヤモンド光導波路・光共振器の作製に取り組む。マスク材料には、半導体加工プロセスが成熟している上、ドライエッチングに対して耐性が期待される窒化シリコンを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大によって、光学系構築に関する実験予定が遅れてしまったため。 今年度は光学系の構築に必要な素子の購入、学会発表に必要な経費を計上する。
|