• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

量子ビット応用に向けた酸化物半導体における暗励起子スピン流の研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K14292
研究機関九州大学

研究代表者

山下 尚人  九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (50929669)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2024-03-31
キーワード酸化物半導体 / 垂直磁気異方性 / 反応性スパッタリング / スピントロニクス
研究実績の概要

スピン流検出技術と励起子技術を複合して新たな量子ビットの提案を目指す本研究において、当該年度は(1)スピンの源となる強磁性半導体の開発研究(2)励起子材料となる酸化物半導体へのスピン注入の研究を実施した。
新材料・新手法の研究を立ち上げ、二つの成果を得た。
(1)強磁性半導体の開発において、強磁性転移温度を向上させる新たな方法を開発した。膜構造の不均一性を積極的に活用することによって、より高温でも半導体が強磁性を示すナノスケール不均一性に着目した実験を行った。研究室独自技術である、窒素添加結晶化法を用いることによりナノスケール不均一性を誘起することに成功し、強磁性転移温度を3倍向上させた。
(2)励起子材料として酸化亜鉛に着目し、電子スピンの注入を試みた。電気的スピン注入法の場合、スピン注入源として用いる強磁性金属が酸化物半導体と接触することにより酸化されるため、スピン偏極を維持することが困難である。そこで、代替手法として酸化物の強磁性材料に着目し、マイクロ波を用いた動力学的スピン注入法を検討した。量子ビットへの応用には薄膜表面に垂直方向に磁化を有する垂直磁化膜を用いることが望ましいため、酸化物かつ垂直磁化となる材料の作製方法を開発した。強磁性体と半導体を同一の成膜装置で作製することに初めて成功し、積層構造の作製に成功した。さらに、磁気共鳴の半値全幅を測定したところ、動力学的スピン注入法によるスピン注入が示唆される結果を得た。
最終年度となる2023年度は実験成果をまとめ、論文として発表するための追加実験を進めるとともに、励起子デバイス作製の肝となる高品質単結晶成長技術を研究する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

強磁性半導体の作製および励起子材料となる直接遷移半導体へのスピン注入に必要な強磁性酸化物の開発に成功した。また、紫外線の波長を有するレーザー光源を用いた励起子発光の評価環境を立ち上げた。
励起子のスピン偏極状態を形成するために、半導体中に電子スピン流を生成する必要がある。その供給源となる強磁性半導体は強磁性転移温度が低いことが問題となっており、本研究でも電子スピン流の生成手法の開発を第一に取り組むべき課題と位置付け、二つのアプローチで研究に取り組み一定の成果を得た。
まず、窒素添加結晶化法を用い、強磁性半導体の強磁性転移温度の向上に成功した。理論的には2012年に提案された比較的新しい着眼点であるが、現実的にそのような効果を再現できるかどうか、議論が続いていた。研究室独自技術を応用することにより、ナノスケール不均一性を誘起したうえ、独自の解析方法を考案することにより、この不均一性が強磁性転移温度向上に資することを示した。強磁性転移温度が未だ液体窒素温度に届かないため、引き続き独自技術を深める研究に取り組む。
次に、垂直磁気異方性を有する強磁性酸化物薄膜を作製し励起子の媒体となる酸化物半導体とのヘテロ構造を同一装置で作製することに成功した。垂直磁気異方性をもつ酸化物材料は、従来は実験室でしか使えない特殊な装置を用いて作製されてきた。本研究の取り組みにより酸化物半導体作製に用いられるのと同じ装置を用いて作製することに初めて成功した。基板とターゲット位置に依存するものの、反応性スパッタリングにより作製した薄膜に熱処理を施すことにより、垂直磁化膜が得られることが明らかとなった。この新しい材料の磁気異方性の測定にあたり、新たな国際共同研究を行うきっかけを得た。これにより励起子へのスピン転写に必要な強磁性体/酸化物半導体の積層構造の作製が可能となった。

今後の研究の推進方策

スピン流の生成に必要な強磁性半導体を研究する。また、暗励起子輸送デバイス作製に向けて、肝となる高品質酸化物半導体製造技術を研究する。具体的には、反応性スパッタリングによる成膜中の内部モニタリングの技術開発に取り組む。これにより、申請者が新たに提案した結晶成長の物理モデルに即して考察を深める。
課題として、スパッタリング時のターゲット冷却が不十分のため、ターゲットの割れが起きやすいことがある。冷却されやすい構造のターゲットとカソードを設計して解決に取り組む。

次年度使用額が生じた理由

実験が順調に進行し、材料費が抑制できたため。論文の英文校正および学会発表等に使用し、アウトプットのクオリティをより一層高めるために使用する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] University of Leeds(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      University of Leeds
  • [学会発表] Non-off Axis Sputtering Deposition of Ferrimagnetic Insulator Film with Perpendicular Magnetic Anisotropy2023

    • 著者名/発表者名
      山下尚人, A. Agustrisno, 奥村賢直, 鎌滝晋礼, 板垣奈穂, 古閑一憲, 白谷正治, C. Marrows
    • 学会等名
      第70回応用物理学会 春季学術講演会
    • 国際学会
  • [学会発表] Microscopic analysis of single crystalline Zn1-xMgxO thin films on sapphire grown via inverted Stranski-Krastanov mode2023

    • 著者名/発表者名
      N. Yamashita, D. Takahashi, T. Okumura, K. Kamataki, K. Koga, M. Shiratani, N. Itagaki
    • 学会等名
      7th International Conference on Advances in Functional Materials(AFM-2022)
    • 国際学会
  • [学会発表] Increase of Blocking Temperature in Co-doped ZnO by Using NitrogenMediated Crystallization2022

    • 著者名/発表者名
      N. Yamashita, A. Agusutrisno, K. Kamataki, T. Okumura, K. Koga, M. Shiratani, N. Itagaki
    • 学会等名
      ICMFS-2022
    • 国際学会
  • [学会発表] Key parameters for single crystalline ZnO film growth by magnetron sputtering via inverted Stranski-Krastanov mode2022

    • 著者名/発表者名
      N. Yamashita, Y. Nakamura, K. Kamataki, T. Okumura, K. Koga, M. Shiratani, N. Itagaki
    • 学会等名
      MRS spring meeting 2022
    • 国際学会
  • [備考] Condensed Matter Physics Group

    • URL

      https://condensed-matter.leeds.ac.uk/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi