研究課題/領域番号 |
22K14306
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中山 一秀 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (10835408)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脱塩工法 / 鉄筋コンクリート / 細孔構造 / 含水率 / 表面含浸材 / 補修効果 / 水分移動 |
研究実績の概要 |
脱塩工法は,コンクリート中の鋼材へ直流電流を一定期間供給することでコンクリート中の塩化物イオンを抽出し,鋼材周辺の腐食環境を改善する塩害対策の一つである。本研究の目的は,脱塩処理に伴うセメント硬化体の組成・空隙構造とコンクリート内部の含水状態や各種イオン濃度の変化に着目し,脱塩工法を適用したコンクリート中の長期的な鉄筋防食効果について定量的に評価する手法を提案することである。 2023年度は,脱塩後に併用する表面含浸材の種類や併用の有無が脱塩後コンクリート中の含水率分布の経時変化に与える影響について検討した。表面含浸材の表面保護効果を定量評価する目的で,シラン系表面含浸材による改質層を有するモルタル中の水分移動を,実験および差分法解析を用いて検討した.脱塩処理をしたモルタル試験体(比較として無通電試験体を用意)の側面一面に対してシラン系表面含浸材を塗布し,その他の面を絶縁処理したものを用いて,乾燥試験・吸湿試験および噴霧試験に供し,試験体質量の増減から水分移動挙動を計測した.解析モデルは,モルタル中の水分移動挙動が気液二相で生じるものと仮定し,移流拡散方程式を基礎式として構成した.乾燥試験および吸湿試験で得られた試験体質量の増減挙動を基に,差分法解析を用いて逆解析を行った。 その結果,脱塩処理によって母材モルタルの水蒸気拡散係数はほとんど変化しないことが確認された。一方で,シラン系表面含浸材による改質層中の水蒸気拡散係数は,吸湿過程・放湿過程のどちらにおいても,母材モルタルの拡散係数より一桁オーダー小さな値を示した。本検討から脱塩後に併用した表面含浸材の保護効果を定量的に明らかにすることが出来たと考えている。24年度は改良した塩水噴霧装置を用いて暴露実験を継続し実験から得られる鉄筋防食効果と数値解析によって推測される鉄筋近傍の含水状態との関係について検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は,脱塩後に適用した表面含浸材の保護効果を評価する数値解析モデルを構築し,乾燥・吸湿および噴霧試験に供した試験体を用いて計測した水分移動挙動と比較検討することで,モデルの妥当性を検証した。このことから,セメント硬化体の組成や空隙構造,表面保護材の併用の有無に伴う脱塩後コンクリート中の含水状態の変化に関する検討は,おおむね順調に進展していると判断している。 最終的な目的である脱塩工法を適用したコンクリート中の長期的な鉄筋防食効果の評価手法の確立に向けて,塩水噴霧装置を作製し鉄筋防食効果を評価するための試験体の準備も完了したことから,本検討は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に構築した数値解析モデルおよび噴霧試験機を高精度なものへと改良し,より効率的に数多くの実験および解析を実施する。さらに,腐食促進環境下で保管している試験体の鉄筋防食効果を評価し,細孔構造や含水状態の変化との関係性について考察し,どのように数値解析モデルに反映させるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
塩水噴霧装置の作製にあたり,計画通りに装置内が調湿されるか確認するため,価格を抑えた試作品を作製したことで,23年度の使用額が予定額より少なくなった。24年度は,23年度の試作から得られた経験を生かし,試作品を改良するために繰り越した予算を使用する計画である。
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