研究課題/領域番号 |
22K14318
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
丸山 泰蔵 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (90778177)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 弾性波 / ガイド波 / 上水道管 / モニタリング / 漏水調査 / 時間反転法 / 有限要素法 / 半解析的有限要素法 |
研究実績の概要 |
令和4年度は①上水道管中を低減衰で伝搬するガイド波のモードの選定,②水道管接合部での散乱減衰の評価,③漏水位置の推定方法の開発の3項目について数値シミュレーションを用いて理論的なアプローチを行った. 上記①については,半解析的有限要素(SAFE)法によって地中に埋設された満水状態の円管中を伝搬するガイド波の分散解析手法を開発した.水道管周囲の外部領域は無限に広がる等方性弾性体でモデル化し,地中への音波の漏洩を含めた分散解析を実行した.最終的に非線形固有値問題に帰着されたため,複素平面上の経路積分を利用した非線形固有値問題の解法であるSakurai-Sugiura法によって解いた.得られた数値解析結果から水中にエネルギーが集中するガイド波のモードは地中へのエネルギー漏洩が少なく遠くまでの伝搬が期待されることが明らかになった. 上記②については,局所的な散乱問題を有限要素法(FEM)で解析するSAFE-FEハイブリッド法による解析手法を開発した.水道管接合部は固体部が不連続,流体部は連続としてモデル化した.SAFE-FEハイブリッド法では水道管周囲の土領域はまだ考慮できていない状態ではあるが,散乱解析によって接合部でのガイド波の挙動を調べた.その結果,水中にエネルギーが集中するモードでは接合部の影響が小さいことがわかった. 上記③については,様々なガイド波のモードが混在して計測されるため,それらの影響の自動的な反映が期待できる時間反転法による位置推定方法の開発を行った.現状としは,数値シミュレーションによる理想的なソースに対しては精度良く位置推定できるが,実測波形では比較的精度が悪い.ソース位置推定の指示関数の構成,観測波形の処理方法に課題があると考えられるため,引き続き検討を重ねる必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,①上水道管接合部での減衰が小さいガイド波の伝搬モードの性質を明らかにする,②遠くまで伝搬するガイド波に対する高S/Nかつモード識別が可能な計測方法を開発する,③計測されたガイド波による漏水検知及びその位置推定方法を開発する,の3項目で構成されている. 上記①のために,上水道管中を伝搬するガイド波の分散解析,水道管接合部による散乱解析を行うための数値シミュレーション手法を開発した.解析結果から水中に音波エネルギーが集中するガイド波は地中へのエネルギー漏洩が小さく,また水道管接合部の影響も小さいことが調べられた.さらに,それらの伝搬モードの変位-音圧分布も数値シミュレーションから把握することが可能となった.したがって,上記②については,変位-音圧分布から適切な計測方法の設計を行う予定である. 上記③について,実際には様々な伝搬モードが混在した波形を観測することとなる.そのため,時間反転法によってそれらの影響を自動的に考慮できる位置推定技術の開発に着手した.半解析的有限要素(SAFE)法による分散解析結果を利用して伝搬モードのみから遠方場のGreen関数を構成して時間反転法を構築した.漏水音のモデルとして理想的な単位パルス信号によるソースを与えたところ,高精度にソース位置の推定が可能であることは確かめられた.一方,実測波形を用いた場合には精度が悪く,ソース位置推定の指示関数,及び波形処理方法に課題があると考えられる状況である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予想通り,水中で計測すれば低減衰で伝搬してくる漏水音の計測が期待される結果が数値シミュレーションから明らかになった.そのため,マルチチャンネルハイドロフォンによる計測を行い,実験的な検証を行う予定である.本研究課題では漏水音を計測することが目的でありソースの制御はできないため,ガイド波は様々な伝搬モードが混在して伝わってくる.したがって,それらのモードに対して有効な情報量を増大させることのできる水道管断面内での計測位置の設計が必要である.すなわち水道管断面内におけるガイド波の変位-音圧分布,その直行関係式を用いて,マルチチャンネルハイドロフォンを開発し,計測実験による検証を行う予定である. 漏水音発生位置推定技術の開発については,現在開発している時間反転法の計測データの処理,指示関数の検討を行う必要がある.計測データの処理については,漏水音の時刻歴波形の形に依存しない手法とするため,デコンボリューション処理を念頭に適切な手法の開発を行う.また,指示関数については,ノイズが多く,ガイド波のモード識別が完全にはできない状況であることを考慮して,最大限精度良く推定可能な方法の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,成果報告のための学会がオンライン開催され出張が予定より少なかったため次年度使用額が生じた.
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