非構造格子モデルによる全球高潮モデルの高度化を図った.具体的には,熱帯低気圧中心付近の気圧や風速の再現性を高めるため,気候再解析値へのパラメトリック台風モデルによる気象場の合成手法を開発した.顕著台風を対象にパラメータを最適化し,熱帯低気圧による高潮計算精度を改善した.また,全球非構造格子により外洋を低解像度で沿岸域を高解像度で効率的に計算するが,日本付近のみさらに高解像度化を図った.このモデルを用いて,2023年にリリースされた気象庁の最新再解析値JRA-3Qを気象外力として,過去40年分の全球高潮・潮汐計算を実施し,全球沿岸の極端海面水位を評価した.波浪に関しても同様に全球非構造格子波浪モデルを開発し,再解析値にもとづく過去40年分の全球波浪計算を実施した.日本・アメリカ沿岸波浪観測網,全球衛星波浪観測データを用いた総合的な精度検証を実施し,高い精度があることを示した. 高潮および波浪による極端水位の気候変動評価に重要な台風については,全球大気気候モデルを用いて台風特性の確率的評価を可能とする独自の気候実験を実施した.台風特性の自然変動を捉える海面水温ベースの指標を提案し、平均最大風速の変動の約80%を説明できるとわかった.また,温暖化条件下では9月平均台風発生数の減少と強い台風の発生割合の上昇傾向を得た. 全球高潮・波浪モデル結果に基づいて,南アメリカ太平洋沿岸を対象として,平均海面上昇+潮汐+高潮+波浪遡上を考慮した極端沿岸水位の長期経年変化を評価し,波浪遡上が支配的な要素であることを示した.また,極端沿岸水位の長期トレンドは,地殻変動による海面水位変化の幅と比肩するため,地殻変動を考慮することが重要であることが分かった. 以上のように全球スケールから沿岸域までの極端海面水位をシームレスに評価するモデルを開発し,一部地域で気候変化評価を実施した.
|