本年度は,機械学習を用いて,包括的な水質を簡便・定量的に比較可能な手法の開発に取り組んだ.日本各地より,水道水,湧水,ボトルウォーターなど飲用水387検体,河川水,地下水,下水処理水など非飲用水28検体,加えて,高度下水処理水のRO透過水14検体を収集した.すべての水試料に対し,三次元蛍光分析(Excitation Emission matrix : EEM)を実施した.また,飲用水30検体は,Oasis HLBを用いて濃縮した後,電場型フーリエ変換質量分析(Orbitrap MS)による分析に供した.以上の水質データに機械学習の異常検知モデルであるVariational Autoencoder (VAE)とDeep Support Vector Data Description (Deep SVDD)を適用し,包括的な水質の類似性を定量的に比較する手法を検討した.結果,異常検知モデルをEEMスペクトルデータに適用することで,飲用水水質との違いを「乖離度」として数値化することが可能となった.本手法によれば,RO透過水の乖離度は実際の飲用水水質のばらつきの範囲内には収まらなかったものの,水道原水に比べてはるかに高い飲用水水質との類似性が示唆された.また,乖離度とTOCあるいはTNの間に相関はなく,構築された飲用水質モデルが単に有機物や窒素化合物の多寡ではなく,蛍光特性における包括的な質の違いを反映することが確認された.全研究期間を通じて,1)下水処理水マトリクス中の疎水性画分が内分泌撹乱物質や医薬品に吸着し,細胞への取り込みを制限することによって生体影響を緩和する能力を有する可能性,2)包括的な下水処理水水質のモニタリングにおけるEEMデータの有用性が示された.
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