研究実績の概要 |
カーボンナノファイバーマット(CNFM)の海上での重油回収材料への応用を目指し、マットの空間のデザインに注目し研究を実施してきた。自重の約20倍の重油(A)を吸着することがわかった(市販品では同じ評価法で自重の約5倍を吸着)が、CNFMの機械的強度の向上と定量的な評価が課題となった[19K15128]。 当該年度の主な成果を以下に示した。(i)原料となるPAN/DMF溶液濃度を12 wt.%で電界紡糸 (印加電圧20kV, 速度1.2 mL/h)すると取扱のしやすいCNFMが得られた。(ii)不融化 (空気中またはオゾン中、280℃、3‐9 h、0‐40 kPaで一方向への引張、セラミック板をサポートとして利用) と炭素化 (800℃, 1 h) により、これまでよりもしなやかで、一定の屈曲に耐えるCNFMを作製できた。 (iii) 10 x 30 mm、10 x 18 mm の6種類の短冊状試験片に対して引張試験を行い、10 x 18 mmの試験片で比較的安定した測定ができ、応力-ひずみ曲線から多段階での破断が生じることが分かった。測定された最大応力は0.12-0.72 MPa程度で、ひずみは0.007-0. 01であった。空気中280℃、9 hの不融化時の引張有無で比較すると、引張無で最大応力0.59 MPa、ひずみ0.012、引張有では最大応力0.72 MPa、ひずみ0.0078。オゾン中280℃、3 hの不融化時の引張の有無で比較すると、引張無で最大応力0.36 MPa、ひずみ0.0078、有りで最大応力0.39 MPa、ひずみ0.0067であった。したがって不融化時に引張することで応力は増加し、ひずみの値は減少する傾向がみられた。 今後も統計的な調査を継続し知見を蓄積、高温下など過酷な環境下で利用できる様々な不織布材料の開発に貢献できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に次年度使用額が生じた主な理由として、当初購入を予定していた物品(小型原子間力顕微鏡(AFM))が、配分された金額では購入できなかったこと、感染症の影響で国際学会への渡航、サンプルの測定やディスカッションを目的とした国内への研究機関への移動にともなう旅費の執行が予定通りに実施できなかったことが挙げられる。 CNFMの機械的強度は微視的で多段階の繊維の破断が生じることから、引張試験だけではなく電気的測定によるアプローチと組み合わせることによってさらに正確な調査が可能になるよう、インピーダンスアナライザの購入に充てた。当該年度は小型原子間力顕微鏡は購入できなかったものの、代替として本校で所有するAFMの使用について目処がたった。しかし、除振台が用意されていないため、除振台の購入等を計画したい。 次年度使用額(\1,975,660)は、AFMの除振台(\500,000)、電界紡糸に用いる樹脂溶液を作製する際に利用できる脱泡装置のアダプター (\150,000)、大型装置利用や実験のための国内研究機関への旅費(\150,000)、サンプル作製と測定や観察に利用する消耗品(\300,000)、画像処理に利用するコンピューター(\300,000)、学会への参加費(\500,000)等として使用することを計画している。年度末の残りに関しては状況に応じて令和6年度に繰越し、研究活動を推進するために有効に運用する。
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