本研究は2ヵ年にわたって行った。2022年度は秋田県を中心に文献調査および堆肥小屋の単体実測調査を行った。文献調査では、主に『日本農業発達史』を用いて、日本における農業近代化の重要な一環としての乾田馬耕の実施と堆肥小屋の誕生の関係性を日本全土を対象にし、歴史的な視点から整理した。特に秋田県において、堆肥小屋の誕生過程を、『秋田県県令全書』、『仁賀保町史』等を主な史料として、県内の乾田馬耕の普及状況および堆肥小屋の建設に対する指導、奨励制度、補助金制度等について整理した。実測調査は秋田県にかほ市畑福田集落を対象に実施し、現存する堆肥小屋合計11棟について、規模、壁と小屋組の構法、母屋との位置関係、現在の用途等を調査した。これらの成果は2022年度の日本建築学会全国大会で発表した。 2023年度は、研究対象の範囲を鳥海山山麓にあたる山形県遊佐町と酒田市、そして秋田県全域に広げた。研究内容は全研究対象地の堆肥小屋の普及状況および堆肥小屋の残存状況に注目し、現存する堆肥小屋の建設と当時の生産組織(特に農地の面積と立地)の関係性に焦点を当てた。対象地域の市町村史を調査した結果、山形県遊佐町、酒田市、及び秋田県内のほとんどの市町村には堆肥小屋の建設に関する記述が見られたが、Google Street Viewを用いた現存状況の調査では、堆肥小屋は秋田県にかほ市と由利本荘市の集落にしか見当たらなかった。堆肥小屋が現存する集落を対象にし、集落分布図の作成により当時の生産組織との関係性を分析し、堆肥小屋が建設された当時、農地からのアクセスが重視されたことを明らかにした。これらの成果は「鳥海山山麓における農業近代化遺産としての混構造堆肥小屋に関する研究」というテーマで講演を行った。
|