研究課題/領域番号 |
22K14420
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 皓平 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30808613)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 地球接近小天体 / 軌道ダイナミクス / 制限三体問題 / Asteroid Capture |
研究実績の概要 |
本研究は,地球に接近する小惑星に対して宇宙機衝突などにより人工的な速度変化を発生させ,地球重力に長期間拘束される軌道に投入する手法を検討するものである.本年は,初年度に開発した小惑星の軌道計算コードを拡張することでより大規模な数値計算による検討を可能とし,小惑星の拘束軌道投入の可能性についてより詳細に検討した. まず,NASAが公開する3万個以上の発見済み小惑星の軌道データをもとにした数値積分により,地球に接近する軌道を持つ小惑星を調査した.本検討では,小惑星に働く8惑星と冥王星の重力,相対論の効果を考慮した上で高次の数値積分手法を用いた.地球に接近する小惑星に対しては,カオスでない長期間拘束可能な軌道への投入を最小の速度変化で達成する,小惑星軌道上の幾何的な位置を明らかにした.また,発見した拘束軌道が周期軌道の場合,その軌道を周期システムとして取り扱うことで軌道の安定性を解析した.さらに,速度変化量を最適化することで拘束軌道を安定化する手法を定式化した.また,計算環境を整備し,上記のコードを並列計算に対応させることで,先に述べた3万個以上の小惑星を対象とした解析を行った.結果として,提案手法により拘束軌道への投入が可能な小惑星を多数発見し,手法の有効性を示した.なお,速度変更後の小惑星軌道のカオス性の判別にはSALI(Smaller Alignment Index)と呼ばれる指標を用いているが,このSALIの計算コードも同様に並列計算に対応させ,計算の高速化が達成された. 研究成果の発信について,本年度は国際会議を含む5件の学会発表を行った.また,次年度に開催予定の1件の国際会議(International Astronautical Congress 2024: IAC2024)に採択され,発表が決定している.加えて,学術誌への論文投稿も行い,現在修正原稿の査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進んでいると判断する.今年度は,多数の小惑星を対象に拘束軌道への投入ミッションの可能性を調査する比較的大規模な解析を行った.これは,1年目で構築した小惑星の拘束軌道への投入手法を,多数の小惑星に対して適用することでその実現可能性を調査する試みである.小惑星の軌道計算は,小惑星に働く8惑星と冥王星の重力,さらに相対論の効果を考慮した比較的詳細なモデルを構築し実施しているが,本内容は計画の申請時に3年目に行う予定とたものであり,計画を前倒した形になっている.また,計算能力の強化(計算機の購入)は2年目に計画していた内容であり,予定通り実行した.これに伴って1年目に開発したコードの並列計算への対応が可能となり,拘束軌道への投入が可能な小惑星を効率的に探索することが可能となった.また,小惑星が地球に接近する際に地球に対して有する速度の方向(時計回り/反時計回り)が必要な速度変化に深く関わるという,本提案の実現可能性を議論する上で重要な性質も明らかとなった.特に速度が反時計回りの場合,比較的小さな速度変化(~20 m/sなど)で拘束軌道への投入が可能である例を示すなど,重要な成果を得ている. 研究成果の発信については国際会議を含む5件で発表を行なっており,申請した計画よりも2件多い数となった.特に,数学を専門とする研究者が多数参加する天文学グループ主催の研究会やJAXA主催のシンポジウム,日本地球惑星科学連合2023年大会など,これまでに参加経験の少ない学会に積極的に参加し,研究内容に関する議論を深めるよう努めた.さらに,次年度に開催される1件の国際会議(IAC 2024)に採択済みであり,次年度における成果発信の準備も進めることができた.学術論文に関しては査読中であるものの,修正原稿を提出済みであり2回目の査読まで進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,地球近傍における小惑星の運動を太陽,地球,小惑星からなる平面円制限三体問題の枠組みで検討してきた.また,速度変化後の小惑星速度が地球-小惑星方向のベクトルに対して直交するという仮定を導入する工夫により,拘束軌道の解析を容易にしてきた.次年度は,シミュレーションモデルをより現実に即したものに発展させ,提案する拘束軌道投入手法の実現可能性をより詳細に検証する.まず,平面で考えていた小惑星軌道を3次元に拡張する.さらに,月の重力と地球重力のJ2項をシミュレーションコードに導入する.これらの影響が考慮されたより現実に近い状態における提案手法の有効性を確認し,その有用性を検証する.また,拘束ミッションの対象とする小惑星についても,これまでの8惑星+冥王星に加えて代表的な大型小惑星の重力を考慮した上で新たに作成する.これら2つのコードを組み合わせることで数多くの対象小惑星に対する拘束ミッションを試行し,その有効性を示す. また,必要な速度変化を達成するための小惑星衝突機の軌道を最適化計算によって求めることで,宇宙機質量や衝突相対速度,消費燃料といった重要なパラメータを具体的に明らかにする. さらに,研究成果の取りまとめと発信にも力を入れる.まず,運動を3次元化したシミュレーションで得られた結果を論文化する.次に,新たに作成した架空小惑星に対する検証結果も論文化する.これらの投稿先は,米国航空宇宙学会のJournal of Guidance, Control, and Dynamics誌やActa Astronautica誌を検討する.また,すでに採択済みの国際会議であるIAC 2024において発表を行い,成果を発信する.加えて,宇宙科学技術連合講演会やプラネタリーディフェンスシンポジウムなどの国内学会での発表にも積極的に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
数値計算用コンパイラ(Intel社製)のライセンス料を確保していたが,現在は無償提供されており当研究を遂行する上でも無償提供の範囲でカバーすることができた.今回の差額は,ライセンス料として計上していた金額とほぼ一致する.次年度に論文のオープンアクセス化費用として使用する計画である.
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