本研究では歩行者集団における歩行周期の自発的な同期現象に着目し、自己組織化への寄与を明らかにすることを目的としている。 初年度には、横断歩道等の双方向から人の流れがある状況を再現した実験通路上において群集実験を実施した。このとき、歩行者の両足首に、小型の加速度センサを装着し、個体レベルの運動を計測し、通路の真上に設置したカメラで歩行軌跡を撮影し、集団レベルでの空間的な構造形成の様子を記録した。個体レベルの運動への介入として、一定周期のメトロノーム音を流し、それに従う条件と、音を流さない条件での歩行を実施し運動の比較を行った。結果として、外音のある場合には歩行のタイミングが同期するが、形成された構造は衝突するリスクの高い不安定な構造となることが明らかとなった。 最終年度である本年度は、こうした歩行リズムの空間的な広がりや、時間的な変化などより詳細な解析を行った。さらに、外音下での構造の不安定さの定量的評価として歩行者の肩の回転運動の解析を行い、個体レベルでの運動パターンにおいても構造の不安定さが現れることを示した。 以上の成果をとりまとめて論文として執筆し、査読付き国際学術誌に投稿し採択された。 本研究の結果は、集団での運動において個々の運動が通常は非同期的なものであることを示し、非同期性が個々の運動の自由さと多様性を生み出し集団の頑健性に寄与することを明らかにした。これらの結果は、人やそのほかの動物の群れでの相互作用において非同期性の重要性を提起し、歩行者交通マネジメントや、非同期で動かざるを得ない自律分散型ロボットナビゲーションへの貢献が期待される。
|