研究課題/領域番号 |
22K14455
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
渡部 真史 中央大学, 研究開発機構, 機構准教授 (30847190)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 沿岸巨礫 / 津波 / 高波 / 沿岸防災 / 地質記録 |
研究実績の概要 |
沿岸巨礫は崖上に分布しているものとそれ以外の地形に分布しているものに分類できる。本年度は崖地形上に分布している巨礫を打ち上げるために必要な波高や流速を算出する方法を検証するために、水路実験を実施した。 断面水槽に崖地形を想定した地形を組み込み、水槽内に斜面と鉛直壁を設置し、沖合からソリトン波を入射し、水位、流速を計測した。また、鉛直壁に直方体ブロックを分力計で固定することで海食崖地形の模型を作成し、ブロックの形状を変化させることで、海食崖地形のノッチ深さとノッチの高さが変化した時のノッチに作用する鉛直方向と水平方向の波力を分力計で計測した。その結果、鉛直壁に作用する津波波力と同様にノッチにも鉛直方向の衝撃波力と持続波力が作用することが明らかとなった。また、ノッチには水平方向よりも鉛直方向の大きな波力が作用し、ノッチの高さが低く、ノッチの深さが大きい時にノッチに作用する鉛直方向の波力が大きくなった。また、ノッチに作用する波力は波面角度と海食崖手前の最大水位と大きく関係していることも明らかにした。 また、水路実験の再現計算を実施し、実験で計測された衝撃波圧・持続波圧共に良好に再現可能であった。また、実際のリーフ地形でも数値計算を行い、実測の波高分布を良好に再現することも確認できた。その後、Cross(1967)で提案されている波圧式の係数の値を衝撃波圧と持続波圧の実験値を再現できるよう推定することで、数値計算を用いずに水深と鉛直方向の流速値のみで海食崖に作用した津波波圧を推定可能な式を提案することができた。この式を用いれば、世界各国に存在する崖地形上に打ち上げられた巨礫に作用した津波波圧の推定に活用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、水路実験と数値計算から、崖地形に分布している巨礫に作用する波力を簡易的に評価する式を提示することができ、査読付き研究論文としても同成果を発表することができた(Watanabe and Arikawa, 2023)。また、リーフ地形でも波浪の数値計算を行い、本研究計画で使用予定の数値計算プログラムの精度を検証することができた。 本研究で提示した式を用いれば、世界各国に分布する崖上にある巨礫から過去の津波や波浪の具体的な規模(波高や流速)を推定する上で大いに役立てることができ、本研究の主目的である沿岸巨礫を用いた過去の津波・高波災害の全球的な解明に大きく前進した。
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今後の研究の推進方策 |
崖地形に分布する巨礫から、巨礫に作用した波の流速や波高を推定する手法は今年度に提示できた。次年度からは、リーフ地形や平地地形などのその他の地形上に分布する巨礫から巨礫に作用した波の流速や波高を推定する手法の開発を行う。 具体的には、水路実験結果と計算値を比較することで、数値計算モデルの精度検証を行う。その上で、地形条件や入射波条件などを様々に変更した理想的なリーフ地形もしくは平地地形で数値計算を行い、巨礫に作用する波力とその時の流速値と波高を算出する。それらの結果を整理することで、巨礫の寸法と地形条件のみから、簡易的に沿岸波高を推定する手法を開発する。開発した式を現地に適応するために、現地調査データの収集なども行う。また、全世界の巨礫分布を明らかにするために、英語論文のレビューも継続的に行い、全世界に分布する巨礫のデータベース作成も並列して実施する。 本年度からは、研究を進めると同時に学会発表も積極的に行い、研究内容に関して、綿密に議論を行う予定である。
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