研究課題/領域番号 |
22K14466
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井原 史朗 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (60909745)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡 / その場観察 / 金属 / 破壊 / 材料力学 |
研究実績の概要 |
金属材料における変形から破壊に至る過程を制御するためには,ナノスケールで生じる現象や微視組織の形成を理解し,計算機シミュレーションに反映させる必要がある.金属材料の破壊に関しては種々のモデルが提案されているものの,ナノスケールにおける破壊現象に関して十分に理解されているとは言い難い.本研究では,SUS316L(FCC)をモデル材料として,透過電子顕微鏡(TEM)内引張その場観察を行い,き裂進展に伴うナノスケールの組織変化を解析した.まず,試料作成にあたっては集束イオンビームを活用し,応力集中部を作ることで,TEM観察箇所で必ず変形・破壊が生じるような試料作成に成功した.組織解析にあたっては,原子分解能観察だけでなく,電子エネルギ損失分光法(EELS)解析および4D-STEM観察を行った.EELSによる解析では,き裂先端で体積プラズモンのピークが低エネルギ側へシフトすることが確認された.また,原子分解能観察によって,き裂先端では非晶質化が生じていることがわかった.体積プラズモンは価電子密度を反映しており,今回の場合は質量密度と相関があるとみなせるため,き裂先端でのピークシフトは,FCCという稠密構造から非晶質化という,局所的な密度変化を捉えていると考えられる.さらに,4D-STEM解析を行った所,き裂進展方向に沿って特徴的な回折スポットが表れた.このように,金属の破壊に関してナノスケールの観点から重要な知見を得ると共に,その解析手法を見出している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,金属における破壊状態の直視観察およびその解析手法の確立に成功している. 破壊過程において非晶質化が生じているという,当初予期していなかった興味深い現象を発見したが,これまでにない破壊状態のナノスケール解析手法も同時に確立したことで,今後の実験における主要な部分を手にしたと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で発見した非晶質化について,まずそのメカニズムを追求していく.転位論等の知見を活用すると共に,必要に応じて分子動力学法による解析も試みる.また,理論や計算面だけでなく,転位組織の観点からも破壊に至る過程を解析していく.引張その場観察を行うことで,非晶質化との関連も明らかにする予定である.さらに,本研究で得られた知見から,連続体モデルのようなマクロモデルに適用できるようなモデルの提案も試みる.
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