透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察技術は日々進展しており,中でもその場観察の技術発展によって加熱や応力印加時のナノスケールにおける組織変化を追跡することは一般的となりつつある.TEM内その場観察と計算機シミュレーションとを統合させることによって,少ない実験回数で種々のパラメータを同定したり種々の現象を解析したりと,その場観察の恩恵を最大限引き出せることが見込まれる.一方,ナノスケールでは顕著となるサイズ効果をシミュレーションに取り入れるためには,TEMによる3次元観察とその場観察とを組み合わせた実験が重要となるが,このような実験例は世界的に見ても皆無である.そこで本研究課題期間では,TEM内その場観察と3次元観察とを組み合わせた実験系の構築および実験の実施を行った.モデルケースとしてCuナノ粒子の焼結を対象として観察を行い,独自に画像処理手法を構築することで,加熱に伴う形態変化を3次元で捉えることに成功した.本成果によって,加熱に伴う材料の形態変化を計算機シミュレーションに3次元で取り入れることが可能となり,焼結や再結晶等の現象を詳細に解析できるものと期待できる. 更に,本研究課題期間では,金属の変形・破壊シミュレーションとの統合を目的として,金属のTEM内引張その場観察も行った.SUS316L(FCC)に引張によって導入されたき裂先端を詳細に観察した所,き裂先端において非晶質化が生じていた.この非晶質化はTi(HCP)やNb(BCC)でも同様に生じていたことから,多くの金属の破壊において普遍的に生じていると考えられる.このように,金属の変形・破壊をシミュレーションするにあたって重要な知見が得られた.
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