研究実績の概要 |
基礎学術的な意味合いにおいても、産業応用上においても、興味深い物性である負熱膨張性(温度上昇に伴って体積が減少する性質)は、希少金属と毒性元素を含む材料における報告例が多い。その中、地球上に豊富に存在する元素で構成されるNASICON型構造(KZr2P3O12, 空間群R-3c)の負熱膨張性を理論的に解析し、試料合成、実験による物性測定と解析まで行うことによって、Γ点の規約表現A2g(Γ2+)に従うフォノンモードが最も負熱膨張性に効くことが分かった。また、dブロック元素であるZr4+をpブロック元素に置換することによって、最も重要なA2gフォノンが虚数振動数を有することになり、空間群R-3cを有する構造が不安定になり、結果的にR-3へ対称性が落ちる相転移が生じるとともに、負熱膨張性が弱まるか、正熱膨張性を有するようになることがわかった。 本研究で得たこの知見を応用することによって、NASICON型構造の8面体配位に、dブロック元素ではなく、pブロック元素を置換すると、2次的Jahn-Teller効果により、ferroaxial相転移が起きると解釈できることも分かった。この機構を応用することによって、近年注目を浴びている、ferroaxial物質の設計指針として理論的に提唱した論文が出版された(T. Nagai, Y. Mochizuki, S. Yoshida, T. Kimura, J. Am. Chem. Soc. 145, 8090 (2023))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、NASICON型構造を有する材料の負熱膨張性の機構解析のみならず、酸化レニウム型構造を有するScF3(空間群Pm-3m)の負熱膨張性の精緻な機構解析も行えた。更に、希少金属であるScを用いない(Al, Ga, In, Y, La)場合、8面体回転歪みが生じて対称性が低下し、正熱膨張性を有するようになること、もしくは、配位数のより高い別の結晶多型が安定化することを第一原理計算により見出した。加えて、半世紀以上前から知られている理想固体の状態方程式と熱膨張係数とグリュナイゼン定数の関係性を精査すること、国際共同研究を推進することによって、グリュナイゼン定数の温度依存性を考慮しなければ、フォノン振動数の温度変化が正確に記述することが困難であることも分かった。
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