研究課題/領域番号 |
22K14479
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松尾 拓紀 熊本大学, 国際先端科学技術研究機構, IROAST准教授 (10792517)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 薄膜 / エピタキシャル / エネルギー貯蔵 / バッファ層 / 反強誘電体 |
研究実績の概要 |
BaTiO3 (BTO)を主とする強誘電体超格子薄膜の構成層と、バッファ層の候補材料の選定に取り組んだ。固相反応法によりSr(Zrx, Ti1-x)O3 (SZT)、Sr(Zry, Ce1-y)O3 (SZC)及びSr(Cez, Ti1-z)O3 (SCT)のセラミックスを作製し、X線回折(XRD)法による結晶構造解析により格子定数の組成依存性を調査した。SZT、SZCは全率固溶したが、SCTではSrTiO3とSrCeO3の混相となった。SZTではZr固溶量の増加に伴い、連続的に格子定数が変化した。以上よりSZTが組成制御により格子定数が変調可能であり、バッファ層および超格子の構成材料として有望であることが明らかとなった。 バッファ層にZr固溶量の異なる2種のSZTからなる積層構造を採用し、その上にBTO薄膜を成膜した。パルスレーザー堆積法(PLD)を用いて、SrTiO3 (STO) (100)単結晶基板上にSZTバッファ層、Ba0.4Sr0.6RuO3(BSRO)薄膜電極、BTO強誘電体薄膜を成膜した。上部電極としてPtを成膜し、薄膜キャパシタ試料を得た。明確な分極反転は観測されなかったものの、XRD測定により基板からの応力が緩和されたBTO薄膜がエピタキシャル成長していることが確認され、バッファ層が応力制御に有効に機能していることが示された。 また超格子構成材料の候補として反強誘電性NaNbO3セラミックスの作製と電気特性評価にも取り組んだ。NaサイトをCaに部分置換することにより、反強誘電相と強誘電相の可逆な電場誘起相転移を実現した。超格子への反強誘電体層の導入と応力制御を組み合わせることで、エネルギー貯蔵密度の向上が期待できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SZT、SZC、SCTについて網羅的に格子定数の組成依存性を調査することで、基板との格子不整合の緩和、および超格子薄膜内部での応力プロファイルの制御に取り組む上で有用なデータベースが得られた。これに基づき超格子の構成材料、およびバッファ層材料の候補を絞り込むことが出来た。SZT薄膜の成膜過程では反射高速電子線回折(RHEED)測定において明瞭な反射強度振動を観測しており、Layer-by-Layer成長した高品質なバッファ層が得られていることを確認できている。またバッファ層導入により格子緩和したBTOエピタキシャル薄膜が成長していることを確認しており、材料選定と超格子の下地となるバッファ層の成膜条件には目処がついた。 一方、本年度中盤まではPLD法による成膜において、KrFエキシマレーザーを用いていた。しかしながら、エキシマレーザーに使用するNeガスが国際情勢の悪化により入手不可能となり、エキシマレーザーを用いての研究の継続が困難になった。このため本年度終盤でNeガスを用いないYAGレーザーを導入し、本レーザーを用いた新たな成膜システムの設計と立ち上げを開始した。 また超格子構成材料の候補として反強誘電性NaNbO3系材料を用いることも視野に入れ、セラミックス試料での検討を行った。CaドープのNaNbO3セラミックスにおいて、ダブルヒステリシスループの観測に成功した。ドーピングを行わないNaNbO3は電場印加により強誘電相に不可逆的に相転移を起こすが、本手法により反強誘電相を安定化できることが示され、薄膜への展開にも期待が持てる成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
YAGレーザーを用いた成膜システムにおける、バッファ層、下部電極層の成膜条件の最適化に取り組む。YAGレーザーは波長、パルス幅、強度プロファイル等がKrFエキシマレーザーと異なるため、照射強度、照射面積、パルスレート等の最適値も異なることが予想される。強誘電薄膜における分極特性の評価にはリークパスが無いことが必須であり、高品質なバッファ層と下部電極層が求められることから、本年度の検討で得られた条件をベースに、Layer-by-Layer成長したバッファ層と下部電極層が得られる条件を探索する。 バッファ層と下部電極層の成膜条件の最適化後、強誘電体層としてBTO単独薄膜を対象とした研究を行う。十分に格子緩和しバルク体と同等の正方晶歪を持つBTO薄膜の成長を目指し、バッファ層の組成制御とBTO薄膜の成膜条件の探索を行う。X線逆格子マッピングおよび原子間力顕微鏡法により、結晶構造の解析と表面平滑性の評価を行い、バッファ層組成や成膜条件がBTO薄膜の格子定数や膜質に及ぼす影響を明らかにする。並行して電気特性評価を行い、リーク電流が十分に抑えられた高品質な薄膜が得られる条件を明らかにする。低リーク電流かつ分極反転が可能なBTO薄膜を得たのち、本年度で格子定数を明らかにした候補材料の中から、BTOよりも格子定数が小さい組成と大きい組成を選択し、それらを構成要素とする3色超格子薄膜を作製する。得られた薄膜について、XRD法により積層構造と格子定数の関係性を明らかにする。さらに分超格子内部での応力制御によるエネルギー貯蔵特性の向上について原理実証を行う。
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