研究課題/領域番号 |
22K14487
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
小林 慎太郎 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, テニュアトラック研究員 (10771892)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射光粉末X線回折 / その場観測 / 高温測定 / 無機材料 |
研究実績の概要 |
カーボンニュートラル社会を達成する上で、セラミックス、磁石等の社会基盤材料の高温下の材料生成過程の理解は、合理的かつ効率的な材料開発を推進する上で必要不可欠である。透過配置の放射光X線回折(XRD)測定は、高温材料生成時の結晶相変化のリアルタイム観測に長けているが、1100 ℃を超える合成過程のその場観測の際には、測定容器や加熱機構の制約、粒子統計の低下等の課題が存在する。このような背景のもと、本研究では、超高温加熱ステージ(ステージ部の最高温度1500 ℃)を用いた、透過型高エネルギーX線構造解析システムの開発を行った。具体的には、1)高温・ガスフロー雰囲気下で使用可能な耐熱試料セルの開発、2) 加熱ステージ内部の温度評価、3) 高粒子統計データを取得するための揺動・並進機構の導入、4) 実材料を用いた合成過程のその場観測の実証について取り組んだ。 1) について、還元ガスなどの流通ガスと試料の高温反応をより効率的に行うための耐熱試料セルを開発した。2)について、ステージ内部に設置可能な輻射防止カバーや試料固定具の改良を重ね、大気中、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気での高温測定を可能とした。また、標準物質の融解過程の顕微鏡観察および構造相転移温度のXRDによる評価を行うことで、温度校正曲線を作成し、最高温度約1400 ℃までのその場観測が可能であることを実証した。3)について、揺動測定と並進測定を組み合わせた測定を可能とし、粒子統計の向上を確認した。4)について、Fe2O3の還元過程観測や、プロトン伝導性金属酸化物BaZrO3の合成過程のその場観測を行い、本システムが高温合成過程や材料相変化過程のその場観測に有用であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、高温測定用の複数種類の耐熱試料セル、ガス反応用の試料セルの開発を行い、ガスフロー条件を含む多種の実験条件における最高温度1400 ℃までの粉末XRD測定が可能となった。また、揺動・並進機構と2次元検出器を組み合わせた測定システムを構築し、構成相の体積分率の評価が可能なレベルの高い粒子統計をもつXRDデータの取得が可能となった。ステージ温度の精度評価も完了し、実材料を用いた実証実験にまで進んでおり、高温合成過程のその場観測を行うためのシステムの構築が当初の予定以上に順調に進んでいる。 現在は、高温測定システムの拡張を目的とし、揮発性や溶解する試料の測定を可能とするための、耐熱キャピラリ型の試料容器を組み合わせた加熱システムの構築も進めており、当初の計画通り、合成過程のその場観測システムの拡張が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗状況を踏まえ、今後は、1) 揮発性の高い試料や溶融する試料のその場観測を可能とするための耐熱試料セルの開発、2) 高粒子統計データを取得するための測定手法の拡張、3) 実応用材料の合成過程のその場観測の実証実験を中心に行う。 1)については、金属またはサファイアなどの耐熱性の高い試料容器の開発を継続して行い、密閉機構の検討を進める。2)に関して、並進測定による粒子統計の向上とステージ内の温度評価を行うために、マッピング測定などを組み合わせる。3)について、1)と関連して高温溶融過程のその場観測実験を行う。また、ガスフロー下でのその場観測の有効性を実証するために、ガスフロー部下流に、排出ガスを分析する機構を設置するなどのシステムの拡張を行う。実材料の合成例として、フェライト磁石材料などの高温合成過程や相変化プロセスのその場観測実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨今の物資供給不足により、設計していた試料セルや部材の一部の納入が翌年度になったため。
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