研究課題
本年度では、室温巨大弾性歪を示すCu-Al-Mn単結晶合金試料に対して、J-PARCでのその場中性子回折実験結果を解析し、試料内部の結晶学的な変化を調査した。その結果、Cu-Al-Mn合金における大きな可逆歪みの本質は、形状記憶合金の「擬弾性変形」を引き起こすマルテンサイト変態と関係なく、母相の体心立方構造を保ったまま可逆的な格子歪みが生じた真の弾性変形であることがわかった。また、合金単結晶の室温弾性定数を測った上で、様々な主要方位を有する単結晶試験片の引張試験を行った。その結果、<100>方位近傍では巨大弾性歪みと応力―歪み関係の非線形性を見出したが、<110>及び<111>方位では普通の弾性挙動である線形かつ小さな弾性変形が確認された。このことから、本合金における室温巨大弾性歪現象は立方晶の低い正方晶せん断弾性率と関連していることが判明した。さらに、第一原理計算とランダウ理論に基づいた解析も行って、エネルギー論観点からその非線形巨大弾性歪現象は格子非調和性によるものがわかった。以上の結果により、大きな弾性歪みを生じさせるために、<100>方位を有する単結晶が不可欠であることがわかった。<100>単結晶の作製のために、一方向凝固とサイクル熱処理の組み合わせという手法を提案した。また、異常粒成長を利用した大きな単結晶材の作製を効率化させるために、サイクル熱処理条件の最適化試験を行った。その結果、サイクル熱処理の冷却・加熱速度を遅くすることで異常粒成長現象を生じやすいことがわかった。最適化した熱処理条件を利用して6cm程度長さの板状<100>単結晶試験片の作製は比較的容易に出来た。
1: 当初の計画以上に進展している
予定していた研究内容について、ほぼ計画通りに進んでいるから。
2022年度の結果を踏まえ、サイクル熱処理によって作製した単結晶試験片を用いて極低温から室温までの機械試験を行い、合金の弾性特性(弾性歪み、ヤング率など)を系統的に評価する。また、超音波法を利用して低温域での弾性定数の測定も行う予定である。以上の結果を参考にして、本合金が低温用シール材への応用可能性を検討する。
学内設備の使用料金に計画したが、設備の予約と利用が次年度になったため、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
中性子産業利用推進協議会 季報「四季」
巻: 58 ページ: 1~6
Nature Communications
巻: 13 ページ: 5307
10.1038/s41467-022-32930-9
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https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/10/press20221013-01-metal.html
https://www.tohoku.ac.jp/en/press/bulk_metal_alloy_elastic_limiting_strain_greater_than_4.3.html