近年の理論解析によると,代表的なII-VI族化合物半導体の1つである硫化亜鉛(ZnS)結晶中の転位(線状の結晶格子欠陥)はキャリアをトラップする機能を有する.キャリアトラップによって,転位の原子・電子構造が変化するが,その実験的な観測はなされていない.そこで本研究では,分光光度計に追加光源を組み込んだ光学系を設計・構築し,機械的変形試験により転位を導入した結晶について測定を行うことにより,光照射による転位の電子構造変化の抽出に挑戦する. 今年度は,まず,分光光度計の改造を実施した.透過率測定に用いるプローブとは別に光源を筐体内部に組み込んだ.さらに,追加光源から検出器を保護するため,試料と検出器の間に追加光源をカットするためのロングパスフィルターを挿入した.追加光源およびロングパスフィルター設置の上で,透過率測定が問題なく実施できることを確認した. 暗幕内の暗闇環境下において硫化亜鉛(ZnS)結晶を塑性変形させることにより,結晶中に転位を導入した.変形後の結晶について,改造した分光光度計を用いて光吸収特性評価を実施した.その結果,追加光源の照射により,追加光源なしの場合にはみられない新たな光吸収がみとめられた.また,光吸収強度は,変形量(すなわち,転位密度)と相関がみられた.こうした新たな光吸収は,キャリアトラップによる転位の電子構造変化に起因すると考えられる.このようにして,転位の電子構造変化の抽出を可能とした.
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