研究課題/領域番号 |
22K14501
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 周平 京都大学, 工学研究科, 助教 (00911710)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / ミディアムエントロピー合金 / その場回折測定 / 透過電子顕微鏡 / 力学特性 / 変形ミクロ組織 / 格子欠陥 |
研究実績の概要 |
本年度は高い格子摩擦応力を有するFCC単相Co-Cr-Ni MEAと,塑性変形に関係すると考えられる物性値 (積層欠陥エネルギー,弾性率等) が室温においてほぼ等しく,低い格子摩擦応力を有するCo-Ni二元系合金に対して,加工・熱処理プロセスを施し,同様な結晶粒径の均一な材料組織を有する試料を作製した.さらに,それらの試料に対して,室温において引張試験を行うことで基礎的な力学物性(降伏強度,引張強度,延性,加工硬化能(変形応力の上昇率)など)を評価した.また,引張変形を施した試料の変形組織を透過型電子顕微鏡により観察した. 2つの合金は,格子摩擦応力以外は同等の物性値を有するにもかかわらず,Co-Cr-Ni MEAの方が高い強度と加工硬化率を示し,Co-Ni合金と同等の均一延性を示した.変形組織を観察した結果,Co-Ni合金では主に転位セルが発達していた.一方,電子トモグラフィー法を用いた3次元変形組織観察の結果からCo-Cr-Ni- MEAでは特定の方位の結晶粒において,転位が{1 1 1}面に拘束されたPlanar転位組織が発達した他,多量の変形双晶が生成している事が分かった.以上より,Co-Cr-Ni- MEAではらせん転位の交差すべりによる動的回復が抑制された結果,転位密度が上昇する事,また変形双晶界面により転位の運動が阻害される事で高い加工硬化能が得られる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた透過型電子顕微鏡による変形組織観察に加えて、電子トモグラフィー法を用いた3次元変形組織観察によってCo-Cr-Ni MEAおよびCo-Ni合金における変形組織発達と変形メカニズムをより詳細に明らかにすることが出来た。これにより、変形組織観察を当初の予定に比べて前倒しで完了させることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡による組織観察のみでは,試料全体での格子欠陥の種類や密度といった情報の全体平均を得ることが難しい.そこで,次年度はSPring-8やJ-PARC等の加速器施設において室温引張変形中のその場X線・中性子回折測定を行う.金属材料が変形すると,材料内で発生した格子欠陥の種類や密度,分布によって,回折ピークの形状が変化することが知られている.このような回折プロファイルに理論モデルをフィッティングすることで材料内の格子欠陥の分布を定量的に解析することが可能である.その際に今年度までの変形組織観察から得られている格子欠陥の種類や分布に関する情報を参考にすることで,フィッティング計算の精度を大幅に向上させることができると考えられる.この実験により,Co-Cr-Ni MEAおよびCo-Ni合金の変形機構を定量的に明らかにし,FCC単相HEA/MEAといった高濃度多元系固溶体合金がなぜ強度と延性を両立できるのかという問いに答えていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により予定していた一部の出張が中止となったため残額が生じた。この分の研究費については、次年度に実験消耗品の購入等に充てる予定である。
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