研究課題/領域番号 |
22K14503
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
杷野 菜奈美 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 外国人客員研究員 (80816489)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | π共役ポリマー / 熱硬化性樹脂 / ナノコンポジット / コンポジットフィルム / 光学フィルム |
研究実績の概要 |
本研究では、π共役ネットワークポリマーフィルムの波長選択的光透過機能の制御を目的とし、添加物となる色素を使用せず、光学特性を有するπ共役分子を直接ポリマー骨格に組込む技術の開発を行うと同時にフィルム化する技術の確立を目指した研究開発を実施している。 今年度は、フェノール系芳香族とアミン化合物の熱硬化反応を利用したπ共役ネットワークポリマー微粒子の合成およびジヒドロキシナフタレンの位置異性体を用いたポリマーフィルムの作製と光学特性評価を実施した。π共役系高分子の化学構造と発色メカニズムの解明を目的として、平面性のフェノール系芳香族とねじれ構造を有する非平面性のフェノール系芳香族を用いて粒子合成を行い、合成後の微粒子の光学特性を評価した。平面性または非平面性のフェノール系芳香族では、得られるポリマー微粒子の色の違いは顕著であり、平面性では黒色系、非平面性では黄白色系になることが確認された。また、これらの微粒子は、可視光領域ではそれぞれの色に相当する吸収があるが、いずれの微粒子も近赤外領域の光は選択的に反射することが明らかとなった。また、ジヒドロキシナフタレンの位置異性体を用いたポリマーフィルムの作製では、フィルム化前のモノマー溶液は、モノマー濃度や反応温度などの調製条件を変えることで異なる呈色を示すことが確認された。さらに、ヒドロキシ基が結合している位置の違いや溶媒の種類を変えることでも反応進行後の呈色が異なることから、π共役系高分子の化学構造が呈色に関係していることが示唆された。フィルム化後は劣化による色の変化は確認されず、各フィルムの透過率測定の結果、可視光領域での吸収波長の立ち上がり位置がそれぞれ異なり、波長透過領域の異なるπ共役ネットワークポリマーフィルムの作製に成功した。今年度は、これまでの研究成果に関して、国際学術会議で6件、国内学会で3件の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、フェノール系芳香族とアミン化合物をモノマーとする沈殿重合(溶媒中に溶解したモノマーが、重合の進行とともにポリマー化した後、析出して粒子が形成される)により単分散な真球状のポリマーナノ粒子の開発を行ってきた。本手法で得られる粒子は、数十ナノメートルから数マイクロメートルの範囲で粒径の制御が可能であるとともに、表面電荷を容易に制御できるため、極性溶媒から非極性溶媒まで様々な溶媒へと分散させることが可能である。また、フェノール系芳香族の種類を変えることで、黒色でありながら近赤外光を選択的に反射する特性や蛍光ソルバトクロミズムが発現することを確認している。今年度は、フェノール系芳香族とアミン化合物の熱硬化(縮合・開環)反応を利用して、ジヒドロキシナフタレンの位置異性体(10種類)を用いたポリマーフィルムの作製および光学特性評価を実施した。フィルム化のための最適条件はまだ確立されていないが、本研究で目的の一つとしている波長選択的光透過機能の制御のために必要な知見が得られたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた技術や成果をもとに、精密な波長選択的光透過機能の制御を目指して、ポリマー構造の特定や分子量評価などを行い、発色メカニズムとπ共役系高分子の化学構造の関係について調査・検討を行う計画である。また、フェノール系芳香族およびアミン化合物の種類を変えてポリマーフィルムの作製を継続して行い、光学特性の評価を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、本研究の基盤となる知見を得るための基礎実験として、既に有していた試薬および既存の器具類の一部を用いて実験を遂行したため、今後、比較のために必要な試薬類やフィルム化のためのガラス器具類などの消耗品費を次年度に使用することとした。また、これまでに得られた成果を国際学術論文に投稿するための英文校正費として次年度に使用する予定である。
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