研究実績の概要 |
本年度は、これまでに先天的に低い格子熱伝導率を有する複合アニオン化合物として見出したMnPnS2Cl(Pn=Sb, Bi)の関連物質であるMnPnCh2X (Ch=S, Se, X=Br, I)およびCdPnS2Clについて、熱伝導率と結合の不均一性の関係を調べた。その結果、MnPnS2Clと同構造を有し、大きな結合の不均一性を示すMnPnSe2Br、CdPnS2Clは、構成元素の組み合わせに関わらず同程度の非常に低い格子熱伝導率を示すことが分かった。他方、結晶構造が異なるMnPnS2Brは比較的結合の不均一性の程度が小さく、やや高い格子熱伝導率を示すことが分かった。今後、このような局所構造の差異と形成される結合の関係を詳細に調べることで、効果的な格子熱伝導率制御方法を確立できると考えられる。この他にも、アンチペロブスカイト構造や層状ペロブスカイト構造などの複合アニオン化合物についてもフォノン計算を行い、結合の不均一性によって導入されるフォノン状態密度のユニバーサルな特徴を見出しつつある。極端に低い格子熱伝導率が予測された物質については、合成方法の探索を含めた実験的検証を開始している。 また、欠陥導入による局所対称性の破れが引き起こす強いフォノン散乱を同定するための計算ワークフローを開発中である。予備的な結果として、カルコパイライトCuFeS2や遷移金属ホウ化物MB2において、特定の種類の欠陥が強いフォノン散乱を引き起こし、顕著に格子熱伝導率を低減する効果を見出した。今後はより広範な物質系において、欠陥が引き起こす局所対称性の破れと強いフォノン散乱の関係を明らかにし、格子熱伝導率低減手法としての確立を図る。
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