研究課題/領域番号 |
22K14512
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 正太郎 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (40805107)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 凝固割れ / ステンレス鋼 / モデル / 高温割れ / 発生予測 / 数値計算 |
研究実績の概要 |
溶接凝固割れ発生メカニズムの統一見解に向けて研究を遂行した.凝固割れ現象をより精緻に理解するためには実溶接施工にできる限り近似された状態で凝固割れを発生させて,その発生を直接観察し,割れ発生ひずみを評価する必要があった.そこで,従来からの凝固割れ評価試験方法を参考にして,実溶接施工を模した凝固割れ評価試験を実施した. 凝固割れの直接観察に成功し,その凝固割れ発生ひずみの直接観察・計測の結果に依れば,凝固割れ発生ひずみは,液相率が高い場合(凝固率が低い)に高い値を示し,そこから液相率が低下するに従って(凝固率が高い場合)低下する傾向を示すことが実験的に明らかになった.これより,諸説あった凝固割れ感受性の傾向を統一解釈が可能となった.凝固割れが凝固過程の残留液膜に起因して生じる液膜の分離挙動と捉えるとR-D-Gモデルを活用することができる.R-D-Gモデルを凝固偏析計算に連成させることで,溶接凝固中の残留液膜分離の限界値を算出することとした.理論モデルにより計算された延性値は,実験により得られた凝固割れ発生ひずみと同様の傾向を示すことが明らかとなった. 詳細な凝固割れ発生挙動の観察結果ならびに凝固割れ挙動に即したより高度なモデル化を試みることで,凝固割れ発生メカニズムの統一見解を導くための知見の取得に成功した. この研究成果は,凝固割れが,凝固脆性温度範囲(BTR)を評価することで対策が可能とされてきた経験則的知見をより詳細に凝固割れ発生現象と関連付けて説明できる可能性を秘めており,この点においてもより詳細な検討が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の課題として,凝固割れの直接観察が難航することが予想されたが,滞りなく直接観察により凝固割れ発生ひずみを評価するに至り,実現象を把握できた.また,その実現象に従い凝固割れ発生ひずみをモデル化でき,実験結果ならびに理論的検討から,凝固割れを説明するに至れた.よって,申請時の計画に従って良好な研究成果が得られていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2年目の研究目的として,「割れ機構に基づいた溶接時の凝固割れ対策の提案とその示唆」が挙げられる.これを明らかとすることで,凝固割れ発生現象がより高度に説明できることになる.構築された凝固割れモデルを活用することで,凝固割れ対策指針を数値解析の結果に基づき提案する.提案した対策において,実際に凝固割れの発生が抑制可能かについて実験的に検証を行う予定である.また,本年度の研究成果から,従来凝固割れ対策が凝固脆性温度範囲(BTR)を評価することで実施できていたという経験則に基づく知見の詳細な解釈を,世界に先駆けて提案できる可能性が期待される.よって,凝固割れ感受性と凝固脆性温度範囲の関係解明についても試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体不足に起因した社会情勢の影響を受け,当初予定していた光学系・溶接システムの購入に目処が立たず,購入に至れなかったために未使用額が生じた.しかし,研究進捗に遅れを出さぬよう代替手法を模索し,研究データは目標通り達成できている. この未使用額は,2023年度に新たに実施予定である材料間の凝固割れ感受性差の検証に必要な実験消耗品の購入経費(材料調達,加工費など)に充てる予定である.
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