研究課題/領域番号 |
22K14513
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荻野 純平 大阪大学, レーザー科学研究所, 助教 (90821869)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 太陽光励起レーザー / 3Dプリンター / Cr/Nd:YAG |
研究実績の概要 |
近年、宇宙開発競争はますます激化しており、その競争の中で、宇宙での生活を想定した宇宙基地の建設構想が注目を集めている。基地の建材を地球から輸送するのはコストの面で非現実的であり、月面基地の建設には月の表土であるレゴリスを原料としたレゴリス焼結材の活用が検討されている。しかし、大気や水が使用できず、電力の確保も困難な宇宙空間での簡便な焼結法の確立にはいたっていない。そこで、本研究では、レーザーを用いた3次元造形により建設材料を製造する「月の砂3Dプリンター」を提案している。さらに、このレーザーを、太陽光励起レーザーにより提供することで、宇宙基地の建築材料製造を全て地球外にあるもので行う “現地調達・完全地産地消”の製造手法を提唱している。 本研究ではこれまでに、太陽光励起レーザーのレーザー媒質に有用なCr/Nd:YAG (Cr3+/Nd3+:Y3Al5O12) を用いた際のレーザー効率の見積もりにおいてよく理解されていなかったパラメーターについて計算的・実験的手法において再評価を行い、太陽光励起レーザーのより詳細なレーザー設計手法を確立した。 太陽光励起レーザーのレーザー設計をするためには、そのレーザー効率の見積もりが必要である。しかしながら、太陽光励起レーザーに有用なCr/Nd:YAGは、イオンを共添加しているため、そのエネルギー移譲過程が複雑であり、十分な理解を得ていない。そのため、これまでの研究では、ある程度の仮定の値を用いてレーザー効率の見積もりを行っていた。そこで、本研究では、本研究ではエネルギー移譲を考慮した発熱率の計算方法を新たに定義し、計算的、実験的側面からその評価を行った。それぞれ良い一致を示し、太陽光励起レーザーにおけるレーザー設計の精度をより正確なものにすることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初は、レーザー設計を行い、レーザー装置の構築に取り掛かる予定であったが、レーザー設計を詳細に行おうとすると、太陽光励起レーザーで有用なCr/Nd:YAGのレーザー効率の見積もりに未知のパラメーターがあり、ある程度の仮定にて設計をしなければならないことが判明した。そのため、Cr/Nd:YAGのレーザー特性の理解を深めることを優先し、未知のパラメーターの道程を行った。その結果、これまで、先行研究でレーザー効率が設計値より低くなる問題を説明できる計算手法を確立することが可能となった。これにより、太陽光励起レーザーのより詳細な設計手法を確立した。 Cr/Nd:YAGは、これまでに実太陽光による発振実験の報告も多数存在しているが、設計値に対して、実測値のレーザー効率が低くなるという問題が生じている。Cr/Nd:YAGはYAGにNd3+イオンとCr3+イオンを共ドープしたレーザー媒質であり、Cr3+イオンで吸収されたエネルギーは、Nd3+イオンへ移譲されるとされているが、その移譲過程の実態は十分な理解が得られていない。特に、この移譲過程における熱の発生過程は、これまで十分に考慮されておらず、レーザー効率低下の要因の一つと考えられる。先行研究の設計値と実験値を比べると、3~4割程度実験値が設計値より低い値を示す傾向にあることが分かった。そこで、本研究ではエネルギー移譲を考慮した発熱率の計算方法を新たに定義し、その確からしさを評価するために、Cr/Nd:YAGの発熱率を実験的に測定した。特定の厚みで計算と測定を行った結果、計算値と実験値は良い一致を示した。また、従来の発熱率の見積もりと、比較すると従来の見積もりが3~4割程度低いことが分かった。これまでのレーザー設計における熱設計が十分でなかったことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
「月の砂3Dプリンター」の地上実証を行うため、①太陽光励起レーザーの構築と②3Dプリンターの構築を行う。 ①太陽光励起レーザーの構築:2022年度に確立したより精度の高い太陽光励起レーザーの設計手法により、レーザー装置の設計を行い、構築を開始する。確立した設計手法からよりレーザー装置の設計の自由度が低く、申請時とレーザー増幅手法を変更する必要もある可能性がある。詳細な熱計算を含めレーザー増幅手法の最適化を行う。 ②3Dプリンターの構築:構築したレーザーを用いた、3Dプリンターの構築も進める。構築した太陽光励起レーザーの出力をファイバーを用いて導き、粉末が敷き詰められた粉末床に照射して掃引し、焼結させ、この上にさらに粉末を薄く敷き詰め、再度照射し、この工程を何層にも繰り返すことで造形を行う「粉末床溶融結合法」を用いて製造する方法を採用する。使用する粉末は、月の砂に化学組成、粒径が酷似する富士山で採取した大沢石の模擬砂を使用する。
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