研究課題/領域番号 |
22K14521
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
石川 弘通 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (80848284)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 熱電変換材料 / シリサイド / 組成制御 / 組織・構造制御 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
近年、地球温暖化に伴う気候変動などの環境問題が深刻化する中、カーボンニュートラルを実現するため、工場や自動車などの廃熱を直接電力として回収できる熱電変換技術が注目されている。本研究では、固相反応による低温合成、第3元素添加、ポストアニール処理などの手法を用いて、平衡状態図に基づく熱力学的な視点から高マンガンケイ化物(MnSix, HMS)熱電材料の精密な組成および微細組織制御を行い、高性能化への材料設計指針の確立を目指す。本年度は、固相反応法を用いた低温合成による精密組成制御およびポストアニール処理による熱履歴がHMSの熱電特性に与える影響について検討を行い、以下の成果が得られた。
1. 出発原料粉末のMnおよびSiをMnSix(1.65≦x≦1.85)の組成比になるよう秤量後、メノウ乳鉢で混合し、石英管に真空封入し固相反応合成を行い、HMSの合成および精密組成制御に成功した。 2. 固相反応法により作製したMnSi1.65、MnSi1.74およびMnSi1.85焼結体のX線回折を行った結果、各焼結体の主成分がHMS相であることを確認した。MnSi1.74焼結体はHMS単相であったが、MnSi1.65およびMnSi1.85焼結体には、主成分のHMS相以外に不純物としてMnSi相、Si相のピークがそれぞれ観測された。 3. ポストアニール処理の前後における各焼結体の熱電無次元性能指数(ZT)を比較した結果、ZTは焼結体のSi/Mn組成比およびポストアニール処理の有無に依存した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、HMS熱電半導体の2元系Mn-Si平衡状態図、第三元素(X)を添加した3元系X-Mn-Si平衡状態図を基にした熱力学的探索手法を用い、高性能化指針の確立を目指す。HMS相には、Si/Mn組成比が(1.70≦γ≦1.75)の範囲で一定の幅があり、Mnリッチ側とSiリッチ側では、Mn副格子とSi副格子の周期構造およびMn、Siの点欠陥、不純物導入の際の形成エネルギーが異なる。今年度は、固相反応法を用いてSi/Mn組成比を精密に制御したHMSを作製し、ポストアニール処理を行うことで、Si/Mn組成および熱履歴がHMSの熱電特性に与える影響について実験的に明らかにできた。これらの成果について学会発表を行い、学術的にも一定の成果が得られた。一方、初年度に計画していた、第一原理計算を用いたHMSの安定構造および電子状態の計算については、計算環境の構築に時間を有しており次年度より実施する予定である。これらの状況より、おおむね順調に研究目標を達成していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に計画している、第3元素添加によるHMSへの不純物ドーピングと微細組織制御に着手する。HMSへの不純物ドーピング行い、3元系平衡状態図の相境界近傍の組成を詳細に検討する。HMS相のMnリッチ側とSiリッチ側における不純物元素の固溶限界値、キャリアの輸送特性を調べ、ドーパント種と半導体特性および熱電特性の相関を解明する。また、遅れていた計算環境構築を完了させ第一原理計算によるHMSの組成と第3元素をドーピングしたモデル用い、それらの安定構造と電子状態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に購入を計画していた高性能ワークステーションが、社会事情による価格高騰で当初予算を大幅に上回る金額となった。令和5年度予算と合わせて高性能ワークステーションを購入する予定である。
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