研究課題/領域番号 |
22K14541
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井口 翔之 京都大学, 工学研究科, 特定講師 (20803878)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アンモニア / 窒素酸化物 / 電解還元 |
研究実績の概要 |
本研究は,窒素分子を経由しない窒素循環(アンモニアの利活用)を実現するために,窒素酸化物を直接アンモニアへ還元する電解反応系の構築を目的としている.室温で駆動する電解反応により窒素酸化物を活性化し,選択的にアンモニアに還元するためには,競争する反応を抑制できる適切な電解系およびカソード触媒の開発が必要である. 本研究の開始当初は,ナフィオン(Nafion)膜,アノード,カソードを一体化した膜-電極接合体を用いた固体高分子電解質型(SPE型)電解によるアンモニア合成を検討した.Pt,Ir,Ruなどの貴金属をカーボンブラック担体に担持したカソード触媒を用いて,カソード室に一酸化二窒素(N2O)の希釈ガスを供給し,カソード電位を一定に保つ定電位電解を行った.その結果,N2Oが反応で消費されている様子は確認できるものの,アンモニアの生成量は痕跡程度であった.消費されたN2Oの大部分は窒素(N2)に還元されていると考えられ,アンモニアが生成しているとしても強酸性のNafion膜に吸収されてしまうと考えられる. 続いて,水酸化カリウム(KOH)水溶液を電解質として用いてアルカリ系の電解系を検討した.遷移金属元素を中心にもつ錯体をカソード触媒として用い,カソード室に一酸化窒素(NO)の希釈ガスを供給し,カソード電位を一定に保つ定電位電解を行った.その結果,カソードが接触するKOH電解液中にアンモニアが生成することを見出した.呈色紙による簡易的な定量によると,アンモニア生成量は,電解液150mL中に最大でも10mg/L以下であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水酸化カリウム(KOH)水溶液を電解質として用いてアルカリ系の電解系を用いると,一酸化窒素(NO)の電解還元によりアンモニアが生成することがわかった.様々な試行錯誤の上で,微量ではあるもののアンモニアの合成に成功した点は評価できる.しかし,アンモニアの生成効率が低いことは大きな課題である.また,アンモニアの生成を,呈色紙を用いた半定量的な手法でしか確認できていないことも課題である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,アルカリ系の電解系を用いた一酸化窒素(NO)の電解還元に絞って以下の検討を進める. (1) 生成したアンモニアの定量:イオンクロマトグラフにより,電解液中に溶存するアンモニア(もしくはアンモニウムイオン)を定量的に検出し,アンモニアの生成速度,アンモニア生成のファラデー効率を算出する. (2) カソード触媒の改良:NOをアンモニアに効率よく直接還元するカソードに必要な要素として,(i)NOが解離吸着する金属A,(ii) 吸着水素種生成を促進する金属B,(iii)分散媒としての金属C,が必要になる.金属Aは,今年度の研究で見出した金属錯体で代替できると考えている.そこで,金属A(金属錯体),B,Cからなる三元系の触媒を設計する.NOの解離吸着により生成した吸着窒素種どうしの会合(窒素(N2)生成)の進行を防ぐため,金属Aは単原子状態に分散している必要がある.種々のキャラクタリゼーションにより三元系触媒のバルク性質と表面性質を分析し,これらの結果を触媒設計に反映させることで,アンモニア生成と競争して進行する水素(H2)生成とN2生成の選択性を抑制し,アンモニア生成効率の高度化を達成する.
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