本研究では独自加工技術により二酸化バナジウム(VO2)薄膜の成長下地基板の表面粗さを作り分けることで、同一基板でVO2試料の相転移温度の任意制御(相転移温度:330~338 K)を実現した。強相関電子系酸化物であるVO2は温度等の僅かな外部刺激によって電子状態が変化することで金属から絶縁体へと相転移し、電気抵抗が~10000倍変化する性質を持つ。こうした性質は物質内にナノ~マイクロメートルサイズで存在するドメインを反応単位としており、ドメイン毎の性質は結晶に内包される歪み量で規定される。従来、歪み量を変化させるためには試料の膜厚や下地基板を変化させるといった基板全体に画一的な処理を行うことでしか達成されてこなかった。これに対し、VO2の内包歪みを下地基板材料の表面状態とVO2マイクロ立体試料のサイズといった基板内で個々の作り分けが可能な要因を制御することで異なる相転位温度を持つVO2試料が1枚の基板上に共存する全く新しいVO2/Si試料を実現した。初年度に得られた成果に基づき、独自化学研磨、プラズマCVM (Chemical Vapor Machining)を使用して異なる粗さ領域が共存するSi基板を作製し、その上にVO2薄膜を成長させた。基板表面の粗さが増加するにしたがい相転移温度は低下する傾向が確認された。さらにこの薄膜試料からマイクロ立体試料(試料幅、試料長さ:3~10 μm)を切り出し相転移温度を評価した結果、相転移温度は上記範囲では試料サイズに依存しないことが明らかになった。以上の結果から、基板の表面状態がVO2の相転移特性を決定づける主要因であるといえる。本結果は従来同一基板内では作り分けが困難であった相転移温度を下地基板の表面加工によって制御可能であることを明示しており、薄膜物性を基板に書き込むといった新たな制御手法のコンセプトを実証するものである。
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