研究課題/領域番号 |
22K14574
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
畔堂 一樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 産総研特別研究員 (40795952)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / ラマン散乱 / 分光 / 顕微鏡 |
研究実績の概要 |
細胞内の内部の環境や、生体分子などの複数の指標を同時に、且つ、継時的に観察する手法の確立を目的とする。細胞内部のラマン散乱イメージングが観察可能な顕微ラマン装置の開発を行う。ラマン散乱は無標織、低侵襲性を有することから、バイオ分野での活用が期待されている。しかしながら、ラマン散乱光はその微弱さが課題であった。そこで、微弱なラマン散乱の信号を増強し、時間分解能を向上させるために金属ナノ粒子をプローブとして用いる。ナノ粒子近傍に強い光の増強場を形成することでラマン散乱光を増強することができる。この現象を細胞内部のイメージングに応用する。金属ナノ粒子を細胞内に局在化させるために修飾・機能化し、細胞内部の環境や、生体分子をモニタリングするためのナノプローブを作成する。細胞へのストレスや環境変化を加えて内部のpHの変化や、生成物をラマン分光法でモニタリングする。得られる多次元のデータを多変量解析し、定量評価を行う。ラマン散乱は生きたまま細胞の状態や環境を把握することができる。また、金属名の粒子を用いた増強効果により、タイムラプス計測も可能になる。細胞内のダイナミクスを生きたまま追うことができるようになり、創薬などの基礎研究での活用が期待できる。 初年度は顕微開発装置の開発及び、その評価を行った。ライン照明型の顕微観察装置を開発し、基盤に固定した金属ナノ粒子を用いてイメージング特性の評価を行った。また、金属ナノ粒子にらまんスペクトルにおいてpH依存性のある小分子を修飾し、周囲のpH環境に応じてピークの応答を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、高い空間分解能で細胞内部の構造や金属ナノ粒子を観察するために、暗視野光学系とラマン分光測定光学系を組み合わせた顕微観察装置を開発した。ラマン散乱光観察のためにはライン照明型の共焦点ラマン散乱顕微鏡を自作した。この顕微鏡では、対物レンズを通してサンプル面に一軸方向に集光されたCWレーザー光を使用し、カルバノミラーの動作によって1次元方向に走査することで、ラマン散乱のイメージングを可能となっている。ラマン散乱光は同じ対物レンズで集光されたのち、エッジフィルタを通してレイリー散乱光と分けられたのちに分光器によって分散し、最終的に2次元CCDで検出される。一度の露光でライン上の試料からのラマン散乱を取得し、そのラインを走査することで2次元情報を取得する。また、装置の光学系は暗視野観察も可能にするように設計されており、細胞内部の金属ナノ粒子の観察も行うことが可能とした。装置のイメージング性能を確認するために実験を行った。まず、ガラス基板上に分散させた金属ナノ粒子を用いて、表面増強ラマン散乱(SERS)を観察した。また、アデニン水溶液を滴下した標準試料においても特徴的なピークを確認した。続いて、pH依存性のある小分子をナノ粒子に吸着させ、溶液のpHを変えながらSERSを観察した結果、特定のピークにおいて、pH依存性の確認を行った。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子にpH依存性のある分子を吸着させて、pHセンシングの機能化を持たせたのちに、励起波長とナノ粒子のサイズの依存性について評価を行う。SERSを効率よく出すためにプラズモン共鳴現象を利用する。粒子と励起波長を最適化したのちに、細胞内部に導入を試みる。細胞内への導入はエンドサイトーシス、エレクトロポレーションを検討している。細胞の環境(pH)を変えた際のSERSによるセンシングを確認したのちに、細胞に酸化ストレスを与えた上での細胞内環境のモニタリングを行う。SERS観察は高感度に検出が可能であるため、掲示観察が可能である。細胞内の環境変化をモニタリングする。 またスペクトル分析のソフトウェア開発にも取り組む。ラマンイメージは空間とスペクトルの3次元情報であり、タイムラプス流計測においては時間が加わって4次元のビッグデータとなる。そこから必要な情報を抽出するためのソフトウェアの開発にも取り組む。空間情報から、増強されたラマンスペクトルを抽出し、多変量解析 を元に、pH、及びミトコントドア内部のグルタチオンなどの生体分子のダイナミクスを多変量解析するためのアルゴリズムを考案し、実験データの定量評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は装置の基礎的な原理検証を中心に行ったため、計画と差が生じた、2年度目は検証した結果をもとに装置を洗練させ、プローブの開発に注力する。
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