研究課題/領域番号 |
22K14581
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
嶋田 泰佑 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (00850140)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細菌 / 学習型センサ / 単一細菌センシング / 界面活性剤 / 機械学習 / マイクロ流体 / ソーティング |
研究実績の概要 |
本年度では、網羅的な単一粒子検出法の構築とマイクロ流体の電子制御システム開発を進めた。 (1)では、単一検体の網羅的検出を目的として、界面活性剤と圧力駆動の活用による単一検体センシング法の構築を行った。本センシングでは、検体の分散性向上のために界面活性剤を検討した。ここでは、細菌は界面活性剤により化学的に破砕されることがあるため、単一検体センシングに影響がない界面活性剤の濃度を検討した。圧力駆動と組み合わせて単一検体をポア内へ導入することにより、混合検体の各検体が混合比に近い比率でポアに導入されることを確認した。機械学習を駆使して、各検体をセンシングしたパルスデータから分類モデルを構築して、ポアを通過する混合検体を識別した。ポアを通過する検体の光学観察に基づき、パルス識別精度を検証したところ、混合検体中の単一検体を77%の精度で識別できることを実証した。 (2)では、パルス識別結果に基づき単一検体をソーティングすることを目的として、マイクロ流体中でのソーティングに向けた電子制御システムを構築した。ソーティングはセンシングで生じたパルスに対して行い、マイクロ流体へ圧力を瞬間的に印加することで対象とする単一検体を分離することを想定している。本年度では、取得済みのセンシングデータ(ダミーパルス)をモデルとして、プログラム開発と圧力装置制御に関する検討を行った。本段階では、パルスの強度に基づきパルス検出を行い、検出されたパルスに対して圧力印加することを想定して、初期的な検討を進めた。上記検討により、①センシングデータ中のリアルタイムに自動検出して、②検出パルスに応答して圧力印加のオン・オフが可能なシステムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、(1)単一検体の包括的センシングによる機械学習識別、および(2)単一検体ソーティングのためのマイクロ流体電子制御システムの構築を達成した。 (1)では、界面活性剤と流体駆動を活用して、混合検体の包括的なセンシング技術を確立した。従来のように電気的な駆動だけでは、検体の表面電荷によって検出頻度がまったく異なっていたが、今回構築したセンシング技術は混合物中の異なる検体を包括的に検出することを可能にした。また、当該センシング技術により単一検体をパルスとして検出して、そのパルスの機械学習推定に基づき混合物中単一検体の識別も行った。これらの実証実験として、細菌(黄色ブドウ球菌)と夾雑物(ポリスチレンビーズ)の混合物を包括的に検出して、各パルスに基づき機械学習推定による検体識別が可能であることを示した。加えて、ポアを通過する単一検体を光学観察することで、混合物の機械学習識別精度を検証するシステム構築にも成功している。 (2)では、(1)のパルス推定に基づき、マイクロ流体中で単一検体ソーティングを行うことを目指して、電子制御システムを構築した。本年度では、ダミーパルスを用いて検証を行っているが、リアルタイムにセンシングデータのパルスを検出して、そのパルス検出をトリガーとして瞬間的な圧力印加をすることができるシステム構築を達成した。本システムは、次年度で検討するリアルタイムなセンシングに対する単一検体ソーティングを行うために必須となる。 (1)と(2)の理由のために、「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、単一検体センシングの機械学習識別精度、およびセンシングとソーティングの融合に関する検討を進める予定である。 単一検体センシングによる識別精度の向上のために、マイクロポア設計とセンシング条件の最適化を行う。マイクロポア設計では、検体がポアの通過に必要な時間に応じてパルスに反映される情報量が変化するため、ポア長の最適化によりパルス識別精度の向上を検討する。また、センシング条件では、圧力駆動の条件を中心に検討する。混合検体を混合比に近い比率でポア内に導入できる条件下で、光学観察による検証に基づき識別精度が最も高い条件を探索する。 センシングとソーティングの融合においては、リアルタイムなセンシングに対して単一検体をソーティングするセンサシステム開発を進める。このために、センシングとソーティングを単一チップ上で行うことができるマイクロ流体開発を行い、今年度開発した電子制御システムと接続することで、センサシステムの開発を進める。電子制御システムをリアルタイムなセンシングデータへと適用するとともに、検出パルスの機械学習推定結果に対して圧力印加を行うためのプログラム開発も進める。これらの検討を通じて、学習型AIセンサシステムというコンセプト確立を行うとともに、対象とする単一検体の分離を実現する。
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