研究課題/領域番号 |
22K14585
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
輕部 修太郎 京都大学, 化学研究所, 特定准教授 (30802657)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン流 / 反強磁性体 / 交差磁性体 / altermagnet / altermagnetism |
研究実績の概要 |
本課題では、磁性体中の交換相互作用に着目して優れたスピン物性、特にスピン流生成の新原理確立を目指して研究を行っている。近年、反強磁性的な特性を残しつつも、強磁性的なスピン分裂した電子構造を有する交差磁性体(altermagnet)に関する研究が盛んに行われている。研究代表者は昨年度、交差磁性体であるRuO2におけるスピン流生成を研究し、これまでスピントロニクスで着目されてきたスピンホール効果では生成し得ない、非従来スピン偏極スピン流の生成を検出する事に成功した。また本スピン流を活用する事で、MRAMデバイスの動作原理である磁化反転の高効率化も実証した。
このような背景から、交差磁性体に関する研究が本課題と直接的にリンクしており、今年度は交差磁性体を探索するため、候補物質であるCrSbに関する研究を行った。交差磁性は電子バンド構造起因の現象であるため、対象物質の結晶性は非常に重要であり、CrSbのエピタキシャル成長に注力した。結果として、CrSb(101)配向性エピタキシャル薄膜を得た。本薄膜を用いてスピン流生成検出を行ったところ、RuO2同様、非従来スピン偏極成分を含んだスピン流生成が成されている事が明らかになった。本成果は、CrSbが交差磁性体である事を強く示唆する結果である。
次年度は本CrSbのスピン流を活用した磁化反転実験や、スピン流生成効率の大きさを決めていると考えられる磁気ドメイン構造の解明などを目指して研究を推進していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は交差磁性体を活用する事で、スピンホール効果では現れない非従来スピン偏極成分を有するスピン流生成により、MRAMデバイス等の動作原理である磁化反転を外部磁場を用いずに行う事を実証した。これにより、当初計画では最終年度に行う予定であった外部磁場フリー磁化反転実験を達成し、予定より大幅に早く研究成果を出すことができた。
昨年度研究で取り扱った交差磁性体はRuO2であったが、今年度は交差磁性体の優位性を示すために、理論的に交差磁性体と予言されている候補物質であるCrSbに関するスピン流生成実験を行った。
CrSbはNiAs型構造を有する化合物であり、古くからその反強磁性特性は知られてきた物質である。一方でその薄膜成長に関する報告はほとんどなく、成長を行う単結晶基板などの選定や成長条件の最適化など、幾分挑戦的な実験になる事が予想された。本研究ではMgO(100)基板を用いて、CrとSbターゲットの同時スパッタによる薄膜成長を試みた。成膜中の基板加熱温度の最適化を行う事で、CrSb(101)面の配向性エピタキシャル薄膜を得る事に成功した。本薄膜上に真空を破らずにNiFe合金を成膜し、スピン流生成実験を行った。本CrSbでも先行研究のRuO2同様、非従来スピン偏極成分を有したスピン流の生成を観測した。これはCrSbが交差磁性体である事を強く示唆する結果であり、大変興味深い展開を迎えている。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の鍵となる交換相互作用、特に交差磁性に着目する事で、優れたスピン機能を実験的に実証する事に成功している。次年度では、上述したCrSbで生成されるスピン流を活用する事で隣接磁性層の垂直磁化反転の実証や、RuO2やCrSbにおけるスピン流生成効率を支配している磁気ドメイン構造の解明を目指す。 磁化反転実験に関してはエピ成長したCrSb上に垂直磁化を有した[Co/Pt]多層膜などを成膜し、印加電流方向依存性や電流量依存性などを系統的に調べ、CrSbの優位性を示す。 また、RuO2やCrSbにおける磁気ドメイン構造の解明に向けて、SPring-8での放射光実験を行い、ドメインサイズなどを明らかにしてスピン流生成効率との関係を明らかにする。交差磁性は波数依存スピン分裂を示すため、反強磁性体でありながら、直線偏光に限らず、円偏光による分光も期待できるため、多角的に情報を得られる可能性がある。 以上のような実験から、交差磁性とスピン流生成の関係を明らかにし、研究主眼である新しいスピン流制御技術基盤の構築を目指す。
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