励起状態のスピン多重度の制御は、有機光エレクトロニクスの効率を左右する最重要課題である。本研究では、有機半導体の界面で起こる電荷分離、再結合を経由した励起状態のスピン反転機構を利用して、新たな光機能の実現や有機光デバイスの高効率化を目指す。 前年度に黄色発光の超低電圧で駆動する有機ELデバイスについて、界面で生成する中間体の電荷移動状態のスピン反転機構を利用することで、その効率を向上させることに成功した。具体的には、黄色発光のルブレン分子に組み合わせるアクセプター分子として、従来使用していたペリレンジイミド分子ではなくワイドバンドギャップなアクセプター分子を用いた。その結果、1.25 Vで100 cd/m2に到達し、1.91 Vで1000 cd/m2に到達できる、超低電圧発光素子を開発できた。 この効率向上のメカニズムを明らかにするために、有機EL発光の磁場効果測定を行った。その結果、界面で生成する中間体のスピン反転について、直接、一重項と三重項がスピン反転を起こしているのではなく、自由電荷を介してスピン反転が起きていることがわかった。これは電荷分離を起こせるようなドナー/アクセプター界面を発光素子に応用することで上記のような超低電圧発光素子の開発につながっていることを証明した。さらにアクセプター分子の三重項準位をりん光測定によって明らかにした。その結果、界面での中間体よりもアクセプター分子分子の三重項準位の方が高いことがわかり、結果的にアクセプター分子の三重項に失活する成分が抑制できたために、発光素子の効率向上につながったことがわかった。
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