研究課題/領域番号 |
22K14594
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西川 浩矢 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (50835519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 強誘電性ネマチック / DIO / 誘電率 / 自発分極 / NLO / メカノケミカル合成 |
研究実績の概要 |
近年、申請者らは強誘性流体が示すフェロネマチック(NF)状態において破格の分極特性(誘電率1万超)を観測し、その巨大分極発現メカニズムを種々の実験結果から総体的に理解する研究を行ってきた。本研究ではNF状態の特異的な創発的現象に着目し、流動-分極相関の観点から実験的・解析的にNF状態の学理深化を目的およびユニークな機能性の探究を目的とする。本年度では課題(1)「室温NF相発現型や等方性液体から直接NF相に転移する直接転移型の新規フェロネマチック分子群の分子設計・合成」を遂行した。 本研究では分子スクリーニングの効率化、高速化さらにSDGsを考慮し、その両方が実現可能なメカノケミカル(MC)合成を採用した。MC合成は、基質とボール間の物理的・機械的刺激によって化学反応性を制御する技術で、極小溶媒下あるいは無溶媒下でも効率的に反応を行うことが可能である。MC合成を用ればNF分子の高速スクリーニングが期待できる。溶液反応では、エーテル合成、エステル縮合、酸化反応、脱保護基、アセタール反応、鈴木宮浦カップリング(SMC)、宮浦石山カップリング(MIC)、薗頭萩原カップリング(SHC)が必要である。したがって、これらの反応を全てMC合成に置換することを第一に目指した。結果として、各種反応をMC合成に置換することに成功し、短時間(10-20分)かつごく少量の溶媒(<0.5 mL/g)で反応が進行し、高収率(>85%)を示すことを確認した。続いて、各種ビルディングブロックをMC合成を駆使して連結することで典型的なNF分子群、RM、DIO、UUZUに加え、新規分子としてBIOTNやC0DIOなども合成することができた。いずれも物性評価によってNF相が実現することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では従来の溶液反応に変わるメカノケミカル(MC)合成の開発とNF分子の高速スクリーニングに焦点をあてた。通常の溶液反応の反応性はアレニウスの式:k=Aexp(-Ea/RT)に従うが、MC反応では衝突因子Aは反応器の震盪周波数に依存することが分かっている。そこで本研究では周波数を30Hz(装置上限値)固定し、必要に応じてヒートガンで加熱しながら震盪させMC反応を行った。まず、NF分子を合成するにあたり、溶液反応を用いると、エーテル合成、エステル縮合、酸化反応、脱保護基、アセタール反応、鈴木宮浦カップリング(SMC)、宮浦石山カップリング(MIC)、薗頭萩原カップリング(SHC)が必要である。そこでまずはこれらの溶液反応をMC合成に置換することを目指した。結果として、いずれもMC反応に置換することに成功した。各反応に用いた溶媒の添加量ηの範囲は0.19-0.5 mL/gと極少量でありグリーンサステイナブルな反応であるといえる。また、反応時間も短時間(10-20分)であり、高い収率(>85%)を示した。中でもエーテル、アセタール、カップリング反応は反応時間が極めて早く、グラムスケールいおいても約10分で反応が完結した。 各種MC合成の開発が完了したため、実際にこれらのMC合成を駆使したNF分子スクリーニングに着手した。ターゲット分子は典型的なNF分子群、RM、DIO、UUZUに加え、新規分子としてBIOTNやアルキル鎖のないDIO型(C0DIO)とした。 カルボン酸誘導体やヨウ素誘導体は残念ながら溶液反応に頼らざるを得なかったが、それ以外の反応はMC合成で行うことができ、全てのターゲット分子のMC合成を行うことができた。実際に得られた分子の物性評価からNF相の発現を確認し、NF相特有の巨大誘電率、自発分極、SHGを観測した。以上のことから、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では以下3つの課題を設けている。 (1)室温NF相発現型や等方性液体から直接NF相に転移する直接転移型の新規フェロネマチック分子群の分子設計・合成を行う、(2)各種分光データ(IR、ラマン、SFG)を取得し、二次元相関分光解析を用いて分子間相互作用と創発性の相関の解明ならびに創発機能性の理解を深める、(3)さらにNF液柱や液滴を作成し、特異的創発性とマランゴニ対流の相互作用による新奇な非平衡現象を調査する。 課題(1)は概ね進展しているが、室温NF相発現型分子のスクリーニングは未踏状態である。したがって、今後も室温NF相発現型分子の開発に努め、同時に課題(2)を遂行し、課題(3)に速やかに移行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に温度変調メカノ合成装置の調達ができなかったため。次年度では温度変調装置を速やかに購入する予定である。
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