研究課題/領域番号 |
22K14594
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西川 浩矢 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (50835519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 強誘電ネマチック / 誘電率 / 自発分極 / SHG / ヘリエレクトリック |
研究実績の概要 |
近年、申請者らは強誘性流体が示すフェロネマチック(NF)状態において破格の分極特性(誘電率1万超)を観測し、その巨大分極発現メカニズムを種々の実験結果 から総体的に理解する研究を行ってきた。本研究ではNF状態の特異的な創発的現象に着目し、流動-分極相関の観点から実験的・解析的にNF状態の学理深化を目的およびユニークな機能性の探究を目的とする。本年度は、従来のNF分子の分子設計を見直し、永久双極子モーメントμと分子長軸のなす角をほぼ0°となるような剛直かつ直線形状の分子を設計し、その強誘電特性を評価した。トラン骨格の末端をビシクロオルトエステルでエンドキャッピングした分子nBOE(n=1-8)は、極小のβ値を示し(0.1°<β<5°)、n=6までエナンチオトロピックNF相を示すことを見出した。アルキル鎖の伸長はNF相発現の駆動源である双極子-双極子相互作用を著しく阻害するため、得られた結果は既存の知見に反しており、極めて興味深い。4BOE-6BOEにおいては、NF相の直下に構造色を示す相が出現した。この相に対して誘電率緩和測定、分極反転電流測定、SHG測定を行ったところ、誘電率7000、自発分極6 μC/cm^2、SHG活性であり、強誘電性の存在を確認できた。すなわち、この新相は、アキラル分子が示す、自発的に分極-キラル対称性が破れた新種のヘリエレクトリック相であることが明らかとなった。このヘリエレクトリック相はこれまでに申請者が発見した相とは異なり、らせん軸方向に明確な電場応答性を有しており、超低電圧でらせんピッチを変調できることが分かった。具体的には最大0.14 V/μmの電場印加により、赤色から紫色の構造色の変調を可能とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに150種類以上のNF分子が世界中で開発されているが、最初に発見された分子群DIO、RM734、UUQUなどの分子をモチーフとした類縁体が97%以上占めている。これらの分子群は、双極子モーメント(μ)が9D以上、μのベクトル方向と分子長軸方向のなす角βがおおよそ5度以上20度以下というような経験的なパラメータを示す。しかし単純なモデルとしては配向ベクトルと分極ベクトルは平行な関係にあるべきであり、そのためにはβ値は0であることが望ましい。本研究では、剛直かつ直線型のトラン骨格を採用し、末端をかご状のビシクロオルトエステルでキャッピングしたnBOE分子群(n:アルキル鎖炭素数、n=1-8)を合成し物性評価を行なった。結果として、βは0.1°-5°の範囲の値を示し、期待通り、μと分子長軸はほぼ同軸にあることが分かった。n=6までの同族列は全てエナンチオトロピックNF相を示した。NF相は分子のhead-tailにおける双極子-双極子相互作用が駆動源とされるので、アルキル鎖長の伸長は不利である。しかしながら、nBOEに関してはこれまでの常識を破綻し、比較的長いアルキル鎖であってもNF相が安定存在することが明らかとなった。また、中程度のアルキル鎖(n=4-6)のシリーズにおいては、NF相から冷却する過程で構造色が観測された。この新相について種々の測定を行ったところ、新相の誘電率は7k程度、自発分極は6μC/cm^2、大きなSHG信号を示し、強誘電性を有することが分かった。nBOEはアキラルな分子であるから、出現した新相は自発的に分極-キラル対称性が破れた新種のヘリエレクトリック相である。また電気光学測定において、新ヘリエレクトリック相のらせん軸方向に電場を印加すると、らせんピッチが変化し、対応する構造色が赤から紫に変化することを確認した。現在論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
新ヘリエレクトリック相を示す分子群はすでにいくつか見つかっている。それだけでなく、他にも全く構造の異なる新ヘリエレクトリック相も発見しており、これらの物性解析は急務である。最終年度はこれらの解析を行い、これらの相を出現するための分子設計指針を確立する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であったメカノ合成装置部品の価格高騰化のため、別予算で購入したため、次年度使用額が生じた。この差分額は、その他メカノ合成用消耗品の購入にあてがう。
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