研究課題/領域番号 |
22K14595
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神永 健一 東北大学, 工学研究科, 助教 (50831301)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | スピントロニクス / パルスレーザ堆積法 / PLD / LSMO / スピン軌道相互作用 / ペロブスカイト / 酸化物エレクロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では強スピン軌道相互作用(SOI)酸化物薄膜をスピン流検出電極として活用し、強磁性絶縁体とのヘテロ構造におけるスピン流/電流変換効率の評価を行なう。並行して、組成比を膜厚方向に連続的に変化させた傾斜組成ヘテロ界面を有するグラデーション構造について均一組成のヘテロ構造と性能比較することを目的としている。当初、所属先所有のガルバノ走査型PLD装置を用いて同じ希土類単酸化物であるYbO/EuOヘテロ構造の評価を予定していたが、本装置では以前同様の超高真空下での強還元条件が達成できず別物質での検討を余儀なくされた。 そこで、代表者は重元素ドープしたペロブスカイト型マンガン酸化物La1-xSrxMnO3(LSMO)に着目した。LSMOは室温強磁性ハーフメタルを示し、従来難点であった弱い保磁力を向上させる解決策として、LSMOのBサイトのMnの一部をSOIの大きなRuで置換する手法が提案されている。今年度はRuよりもさらに大きなSOIをもつIrで置換した(La,Sr)(Mn,Ir)O3(LSMIO)エピタキシャル薄膜を作製したところ、10%Ir置換でRu同様に垂直磁化の発現を初めて確認した。ただしIr10%置換では絶縁的挙動を示すとともに、飽和磁化はノンドープの1/3まで減少する。一方、ガルバノ走査型PLD装置によりIrドープ量が膜厚方向に対し線形な組成傾斜を有するエピタキシャル薄膜を作製すると、ノンドープ同様の金属的挙動と飽和磁化が確認された。放射光によるXMCD測定からも、傾斜組成薄膜は均一組成とは異なる磁気構造を有していることが示唆された。次年度以降はLSMIOの傾斜組成薄膜についてヘテロ構造を作製し、詳細なスピン物性を評価していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたYbO/EuOの研究は現況では進行できないことが判明した。その一方で、新たな研究の方向性として重元素ドープしたペロブスカイト型マンガン酸化物のLSMOが傾斜構造において特異な電気・磁気特性を発現することを見出せた。次年度以降、LSMOを中心に傾斜構造とスピン物性の相関を解明していくことで、本研究課題で提案している「グラデーションスピントロニクス」という新分野の開拓が期待されるためである。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の段階ではYbO/EuOヘテロ構造の評価を予定していたが、装置の制限により重元素ドープLSMOに着目物質を変更した。今年度の成果として、Irを10%置換したLSMIO薄膜において室温強磁性と垂直磁化の発現および絶縁的挙動を示すことを見出した。さらにガルバノ走査型PLD装置を用いてIr組成傾斜を持つ薄膜を作製すると、ノンドープ同様の金属的挙動と飽和磁化が確認され、放射光によるXMCD測定からも均一組成膜と異なる磁気構造を示唆する結果が得られた。次年度以降はLSMIOの傾斜組成薄膜についてSrIrO3などの強SOI酸化物とヘテロ構造を作製し、詳細なスピン物性を評価していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
その他に含まれる共通機器使用料が当初の予算よりも安く抑えられたため。そのまま次年度に共通機器使用料に繰り越す。
|