研究実績の概要 |
本研究では強スピン軌道相互作用(SOI)酸化物薄膜をスピン流検出電極として活用し、強磁性絶縁体とのヘテロ構造におけるスピン流/電流変換効率の評価を行なう。並行して、組成比を膜厚方向に連続的に変化させた傾斜組成ヘテロ界面を有するグラデーション構造について均一組成のヘテロ構造と性能比較することを目的としている。当初、所属先所有のガルバノ走査型PLD装置を用いて同じ希土類単酸化物であるYbO/EuOヘテロ構造の評価を予定していたが、本装置では以前同様の超高真空下での強還元条件が達成できず別物質での検討を余儀なくされた。そこで、代表者は重元素ドープしたペロブスカイト型マンガン酸化物La1-xSrxMnO3(LSMO)に着目した。LSMOは室温強磁性ハーフメタルを示し、従来難点であった弱い保磁力を向上させる解決策として、LSMOのBサイトのMnの一部をSOIの大きなRuで置換する手法が提案されている。そこでRuよりもさらに大きなSOIをもつIrで置換した(La,Sr)(Mn,Ir)O3(LSMIO)エピタキシャル薄膜を作製したところ、10%Ir置換でRu同様に垂直磁化の発現を初めて確認し、Ir10%置換では絶縁的挙動を示すとともに、飽和磁化はノンドープの1/3まで減少する。 今年度はIr置換濃度を0-20%の範囲で変化させたLSMIO薄膜を作製し、いずれも不純物のない高品質な単結晶エピタキシャル薄膜を作製できることを確認した。詳細な物性探索の結果、特定のIr濃度のLSMIO薄膜はキュリー温度とは異なる温度で金属絶縁体転移を生じ、驚くべきことに超伝導的挙動であるゼロ抵抗を発現した。そのうえ転移温度はIr濃度に応じて変化し、Ir~10%で最大Tc = 125 Kに達することが判明した。次年度以降、本来の当初の目的と大きく反れるが、LSMIOにおける超伝導的挙動の解明を進めていく予定である。
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