本研究は、ナノスケールでの磁気共鳴を行い、ナノ磁性体の特性を明らかにするものである。そのため、高周波電磁場照射機構の開発と試料の作製に取り組んでいる。高周波電磁場照射機構の開発は完了し、約16GHzまでの高周波電磁場印加可能であることを確認した。試料としては臭化クロム薄膜が適切であると判断し、その作製に取り組み、清浄かつ原子レベルで平坦な薄膜作製に成功した。 一方、検出には非常に高感度測定が必要であることが判明した。そこで、磁気共鳴によって発現するスピンポテンシャルをに着目し、さらには高感度測定である走査トンネルポテンショメトリ(STP)法に着目した。STP法では、化学ポテンシャルをナノスケールで測定することができ、そのエネルギー分解能はマイクロボルトのオーダーである。通常の液体ヘリウム温度(約4ケルビン)で動作するSTMでは1mVであり、それよりも良いエネルギー分解能を達成することができる。しかしながら、極低温でSTP測定が達成された例はほとんどない。そこで、まずは本研究では低温STP開発に取り組んだ。試料としては、非常に結晶性が高い試料の作製が可能なシリコン111基板上に形成された鉛単原子層薄膜を用いた。 結果として、極低温環境で局所表面電気伝導測定に成功した。さらには実空間でのホール効果観察に成功した。このことは、電流を伴わないポテンシャルの変化をSTP法で検出できることを示し、磁気共鳴によって発現するスピンポテンシャルの検出可能性を示した。
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