研究実績の概要 |
強誘電体ペロブスカイト型ニッケル酸化物(RNiO3)において水素吸蔵に伴う金属絶縁体転移が近年報告された. しかし, その機構は明らかでない. 機構解明のためには, 第一に水素濃度と電気抵抗の関係を明らかにする必要がある. 本研究では, 水素の深さ分析に用いられる共鳴核反応法(NRA)と電気伝導特性を組み合わせた手法を独自に開発し, 真空槽中でのその場水素化によりRNiO3の電気抵抗と水素濃度の関係を明らかにした. 試料は膜厚100nm程度のエピタキシャル薄膜(SmNiO3, NdNiO3, LaNiO3)を用いた. 試料表面には水素分子解離用の触媒として10μm x 10μmのPtパターンを5μm間隔で作製し, 480Kでの水素ガス曝露によって水素化を行った. 水素化過程における電気抵抗を常に測定し, 各水素化段階における水素の深さ分布をNRAによって調べた. 希土類の種類によって水素分布の均一性に差があることが分かった. 試料全体が最も均一に水素化されたSmNiO3Hxで水素による電気抵抗の増加が最も大きく, 水素濃度と電気抵抗の関係から水素濃度x = ~0.5 と ~1の二つの絶縁相があることが明らかとなった. 水素による絶縁体化の機構解明には, 電子状態の観測が欠かせない. これまでに原子状水素曝露を用いることで, Pt触媒を用いない水素化にも成功した. これにより紫外可視分光や光電子分光による電子状態の分析や, チャネリングNRAを用いた水素位置の構造解析が可能となる. 現在, 電子状態の分析が進行中であり, 次年度にはチャネリングNRAによる構造解析を予定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真空槽でのその場水素化により, Pt触媒を表面に有する試料に対して共鳴核反応法(NRA)と電気抵抗測定を用いることで膜厚100nm程度のSmNiO3, NdNiO3, LaNiO3の電気抵抗と水素濃度の関係を明らかした. Pt触媒を考慮して水素の深さ分布を詳細に解析することにより, 3つの試料で水素の深さ分布の均一性に差があることがわかった. また光学顕微鏡を用いた観察により, 横方向の水素分布の均一性にも希土類によって差があることがわかった. これら縦方向と横方向の水素分布の違いが抵抗の増加幅に関係することを明らかにした. 一方, 紫外可視分光や光電子分光による電子状態の観測においては, 試料が均一に水素化されていることが望ましい. そこで膜厚20nm程度の試料に対して原子状水素を用いた水素化の条件最適化を行った. Pt触媒を用いた場合に比べて試料全体の均一な水素化が可能となり, チャネリングNRAを用いた構造解析および光電子分光等を用いた電子状態分析の準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
水素による絶縁体化の機構解明には, 電子状態の観測が欠かせない. これまでに原子状水素曝露を用いることで, Pt触媒を用いない水素化に成功した. また, 電子状態の分析に用いられる紫外可視分光や光電子分光と電気抵抗測定を組み合わせた装置の開発が完了した. これによりクリーンな試料表面を持つ試料を用いて電気抵抗と電子状態の関係を調べることができるようになった. 共鳴核反応法(NRA)の結果と併せることで, 水素濃度と電子状態の変化を関係づけることが可能である. 現在, 電子状態の測定を進行中である. またチャネリングNRAを用い, 水素位置の同定にも挑戦する.
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