研究課題
本年度は,本課題の目標である“単分子膜構造の可視化”に向けて,それを可能にする解析手法の構築に取り組んだ.具体的には,分子パッキングの微細な違いも見逃すことなく議論するために,赤外スペクトルの固体測定で伝統的に使われる波数分解(~4 cm-1)の見直しから行った.その結果,主要な有機半導体の多結晶材料においては,想像よりも遥かに鋭い振動バンドを与えることがわかり,従来の波数分解では正確な構造情報を得るのに不十分であることが判明した.実測に基づいて,有機材料の凝集構造を議論するための最適な波数分解を決定するとともに,質の高いスペクトルを得るための偏光や入射角,基板材質などの測定条件も整理した.上記の研究と並行して,直鎖アルカンをモデル化合物として選び,単分子膜構造を識別する鍵となる振動バンドを調べた.その結果,CH伸縮振動バンド領域を詳しく解析することで,メチレン基とメチル基の構造を切り分けて議論できることを明らかにした.実際に,高性能有機半導体材料であるPh-BTBT-C10の薄膜の赤外スペクトルを測定すると,確かに相転移に応じてこれらの振動バンドが敏感に変化した.以上のようにして,本年度は単分子膜構造を解明するための解析手法の構築を行った.それに伴い,凝集相の赤外スペクトルを測定する際の波数分解に関する従来の認識を一新できたことは,これまで見逃されてきた構造情報を掘り起こすことにつながるため,重要である.
1: 当初の計画以上に進展している
初年度の目標としていた解析手法の構築に関してはほぼ予定通り進行したことに加えて,本課題を遂行するうえで重要となるマーカーバンドの発見を想定以上に早い段階で発見できたため.
X線回折を用いた高分解測定を構築し,赤外分光法と併用することで,単分子膜構造の解明を行う.
昨今の情勢により,必要としていた物品の納期の目処が立たなかったことなどにより,物品費に関しては次年度以降に使用を予定している.したがって,繰越分は当初の計画通り,本課題に伴う消耗品費や,得られた成果を国際的学術誌に発表するための論文掲載費などに割り当てる予定である.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 3件)
Journal of the American Chemical Society
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